テストステロン注射は筋肉注射と皮下注射どちらが良い?|保険診療との違いも解説
TRTを始めると「どんな注射をするの?」という疑問
男性更年期障害(LOH症候群)の治療を検討されている方から、よくいただく質問があります。
- 「注射は痛いですか?」
- 「筋肉注射と皮下注射は何が違うの?」
- 「保険診療でも皮下注射はできますか?」
実は、日本と海外ではTRT(テストステロン補充療法)の方法が少し異なります。
今回は、筋肉注射と皮下注射の違いと日本の保険診療で行われている治療についてご紹介します。
日本の保険診療では筋肉注射が基本
現在、日本で保険適用となっているテストステロン注射は、テストステロンエナント酸エステルの筋肉内注射です。
代表的な製剤として、
- エナルモンデポー®
- テスチノンデポー®
などがあります。
一般的には、125~250mgを2~4週間ごとに筋肉内へ投与します。
保険診療でTRTを受ける場合は、筋肉注射が標準治療になります。
筋肉注射のメリット
筋肉注射は長年使用されてきた実績があり、最もエビデンスが豊富な投与方法です。
メリットとして、
- 保険適用で治療できる
- 有効性・安全性が確立している
- 投与回数が比較的少ない(2〜4週間ごと)
などがあります。
日本泌尿器科学会のLOH症候群診療ガイドラインでも、現在の標準的なTRTとして位置づけられています。
デメリットは「ホルモンの波」
一方で、筋肉注射には特徴があります。
注射後数日でテストステロンはピークに達し、その後ゆっくり低下していきます。
そのため、人によっては
- 注射直後は元気
- 次回注射前になると疲れやすい
という「波」を感じることがあります。
もちろん個人差はありますが、これが筋肉注射の特徴の一つです。
皮下注射はなぜ注目されている?
近年、海外では皮下注射によるTRTが急速に普及しています。
その理由の一つが、テストステロンの吸収パターン(薬物動態)の違いです。
筋肉内は血流が豊富なため、注射後は比較的早く薬剤が吸収され、血中テストステロン濃度は数日以内にピークへ達します。
一方、皮下脂肪は筋肉より血流が少なく、リンパ系を介した吸収の割合も大きいため、薬剤がゆっくり吸収されると考えられています。
実際に薬物動態を比較した研究では、皮下注射は筋肉注射よりも最高血中濃度(Tmax)に到達するまでの時間が遅く(約8日 vs 約3日)、血中濃度の変化も比較的なだらかになることが報告されています。
そのため、
- 注射後だけ極端に高くなりにくい
- 次回注射まで急激に低下しにくい
- 血中テストステロン濃度をより一定に保ちやすい
という特徴が期待されています。
もちろん、投与量や投与間隔によっても変化するため、すべての患者さんで同じになるわけではありません。
海外で増えている皮下注射
近年、アメリカを中心に増えているのが皮下注射によるTRTです。
お腹や太ももの皮下脂肪へ、細い針で少量ずつ注射する方法です。
週1~2回、あるいは少量をさらに頻回に投与することで、
血中テストステロン濃度を比較的一定に保ちやすいと考えられています。
皮下注射のメリット
海外の研究では、皮下注射にも多くの利点が報告されています。
例えば、
- 注射時の痛みが少ない
- 自己注射しやすい
- 血中濃度が安定しやすい
- ホルモン値の変動が少ない
などです。
実際、筋肉注射と比較してテストステロン値は同等に維持できるという報告も増えています。
皮下注射は日本では標準治療ではありません
ここは非常に重要です。
現在、日本で承認されているテストステロンエナント酸エステル製剤は「筋肉内注射」として承認されています。
つまり皮下注射は添付文書上の用法ではなく、一般的な保険診療として広く行われている方法ではありません。
一部の自由診療クリニックでは採用されていることがありますが、標準治療とは区別して考える必要があります。
筋肉注射と皮下注射の比較
また、比較表も少し修正すると、より正確になります。
| 筋肉注射 | 皮下注射 | |
|---|---|---|
| 吸収速度 | 比較的速い | 比較的ゆっくり |
| ピーク到達 | 早い | やや遅い |
| 血中濃度の変動 | 大きくなりやすい | 比較的安定しやすい |
| 投与間隔 | 2〜4週間ごと(日本保険診療) | 少量を週1〜2回が一般的(海外) |
| 自己注射 | 一般的ではない | 実施しやすい |
それぞれにメリット・デメリットがあります。
日本の保険診療ではどのように投与される?
日本では、症状やホルモン値を確認しながら、通常は125〜250mgを2〜4週間ごとに筋肉内へ投与します。投与量や投与頻度の考え方についてはTRT(テストステロン補充療法)の最適な投与量とは?で詳しく解説しています。
また、注射後4〜7日頃に遊離テストステロンがピークになるため、必要に応じてその時期に採血を行い、治療効果を評価することが推奨されています。
TRTは「注射の方法」より「適切な管理」が重要
患者さんの中には、
「筋肉注射と皮下注射のどちらが優れていますか?」
という質問をされる方もいます。
しかし、実際に重要なのは
- 症状が改善しているか
- テストステロン値が適切か
- PSA
- ヘマトクリット
- 副作用がないか
などを定期的に確認することです。特に注射間隔が長いとヘマトクリットが上がりやすいことが知られています。詳しくはテストステロンと多血症、瀉血についてをご覧ください。
どの投与方法であっても安全なフォローアップが欠かせません。
自由診療では選択肢が広がることも
海外では、
- 皮下注射
- ジェル製剤
- クリーム製剤
- 長時間作用型注射
など様々な製剤が利用されています。
日本でも自由診療では、筋肉注射以外の方法を採用している医療機関があります。
ただし、製剤ごとにエビデンスや承認状況が異なるため治療を受ける際には十分な説明を受けることが大切です。
男性更年期(LOH症候群)の検査・診断・保険診療については▶こちらで詳しく解説しています。
まとめ
日本で保険診療として行われているTRTは、テストステロンエナント酸エステルの筋肉内注射が標準です。
一方で、海外では皮下注射によるTRTも広がっており、血中濃度を安定させやすいなどの利点が報告されています。
ただし、日本では皮下注射は標準的な保険診療ではなく、保険適用もありません。
保険適用となる条件や、保険診療で対応できる範囲についてはこちらで詳しく解説しています。
どの方法を選ぶかよりも大切なのは、患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせて、適切な投与方法を選択し、
定期的な採血や前立腺検査などを受けながら、安全に治療を継続することです。
TRTは「注射を打つこと」が目的ではなく、毎日を元気に過ごせる身体を取り戻すための治療です。
参考文献
- 日本泌尿器科学会・日本Men’s Health医学会. LOH症候群診療ガイドライン(2022). 日本泌尿器科学会 LOH症候群診療ガイドライン(PDF)
- Mulhall JP, et al. Evaluation and Management of Testosterone Deficiency: American Urological Association Guideline. J Urol. 2018.
- Bhasin S, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018.
- Spratt DI, et al. Subcutaneous Injection of Testosterone Is an Effective and Preferred Alternative to Intramuscular Injection. J Clin Endocrinol Metab. 2017.
- Figueiredo MG, Gagliano-Jucá T, Basaria S. Testosterone Therapy With Subcutaneous Injections: A Safe, Practical, and Reasonable Option. J Clin Endocrinol Metab. 2022.
- PMDA. テストステロンエナント酸エステル製剤 添付文書(筋肉内注射). PMDA 添付文書情報
- 厚生労働省. 薬価基準収載品目(テストステロンエナント酸エステル). 薬価基準収載品目リスト(厚生労働省)