遊離テストステロン/E2比とは?|男性ホルモンを評価する新しい視点
テストステロンだけ見ていても十分ではない?
男性更年期障害(LOH症候群)の診療では、遊離テストステロン(Free Testosterone:FT)を測定することが一般的です。
しかし近年では、テストステロンだけでなくエストラジオール(E2)とのバランスにも注目が集まっています。
実際にテストステロン値がそれほど低くなくても、
- 性欲低下
- ED
- 気分の落ち込み
- 乳房の張り(女性化乳房)
- むくみ
などの症状が出る方もいます。
その背景の一つとして考えられているのが、遊離テストステロン/E2比(FT/E2比)です。
今回は、この指標について現在分かっていることをご紹介します。
E2(エストラジオール)は男性にも必要なホルモン
「エストロゲン=女性ホルモン」というイメージがありますが、男性でもエストラジオール(E2)は重要な役割を担っています。
特に高用量でテストステロン補充行っている場合にはアロマ化の副作用の観点から注意してみられます。
いわゆるガイノ(ガイノコマスチア)、女性化乳房のリスクが上がるためです。
AAS使用に伴う女性化乳房の仕組みと対応については、女性化乳房とAASもご参照ください。
副作用でE2が高くなることを懸念してモニタリングしますが、低ければよいものでもありません。
E2の主な働きとして、
- 骨密度の維持
- 性機能の維持
- 脳機能
- 血管機能
- 脂質代謝
などがあります。
実際、エストロゲンが極端に少ない男性では骨粗しょう症や性機能障害が起こることが知られています。
E2は「少なければ良いホルモン」ではありません。
男性のE2はどこから作られる?
男性のエストラジオールの多くは、
テストステロンがアロマターゼという酵素によって変換されることで作られます。
アロマターゼは特に
- 内臓脂肪
- 皮下脂肪
に多く存在しています。
そのため、肥満になるほどテストステロンがE2へ変換されやすくなります。
つまり、肥満では「テストステロン低下」と「E2相対的増加」が同時に起こりやすいのです。
FT/E2比とは?
FT/E2比とは、遊離テストステロンをエストラジオールで割った比率です。
この比率は、男性ホルモンと女性ホルモンの「バランス」を見る考え方として提案されています。
重要なのは、
「テストステロンが正常だから問題ない」
ではなく、
テストステロンとE2のバランスが適切か
という視点です。
FT/E2比が低いと何が起こる?
現在の研究では、FT/E2比が低い男性では、以下との関連が報告されています。
- 性欲低下
- ED
- 肥満
- メタボリックシンドローム
- 男性更年期症状
- 女性化乳房
ただし、これらは関連を示した研究が中心であり、原因と結果が証明されたわけではありません。
TRT中にも重要な指標?
TRTを行うと、テストステロンが増える一方でその一部はE2へ変換されます。
そのため、E2もある程度上昇することがあります。
ここで重要なのは、E2が上がること自体は異常ではないという点です。
E2は、
- 骨密度維持
- 性欲
- 勃起機能
にも必要なホルモンだからです。
そのため現在のガイドラインでは、E2だけを見て積極的に下げる治療は原則推奨されていません。
E2が高すぎる場合は?
一方で、E2が過剰に高くなると、
- 女性化乳房
- 乳頭痛
- むくみ
- 気分変動
などが起こることがあります。
このような場合には、原因を確認したうえで、
- TRT量の調整
- 体脂肪減少
- 必要に応じてアロマターゼ阻害薬
などが検討されることがあります。
ただし、アロマターゼ阻害薬は骨密度低下や脂質代謝への影響も懸念されるため、症状がない方に予防的に使用することは推奨されていません。
FT/E2比に「基準値」はある?
ここが非常に重要です。
現時点では、国際的に確立されたFT/E2比の基準値は存在しません。
研究ごとに
- 測定法
- 単位
- 対象患者
が異なるため、「○○以上なら正常」という明確な基準はまだありません。
FT/E2比は研究が進んでいる指標ではあるものの、診断基準として確立されたものではありません。
各ホルモン項目の一般的な基準値は検査基準値一覧でまとめて解説しています。
今後期待される指標
近年では、単純なテストステロン値だけでは説明できない症状を理解するために、
- FT/E2比
- Testosterone/E2比
- SHBG
- 遊離アンドロゲン指数(FAI)
など、複数のホルモンバランスを総合的に評価する研究が増えています。
とはいえ、SHBGの測定では研究でしか行えず、SHBGやFAIを日常診療で把握することは困難です。
今後、FT/E2比が男性更年期障害やTRT管理の新しい指標になる可能性はありますが、現時点ではまだ研究段階です。
大切なのは「数字だけ」で判断しないこと
男性更年期障害では、血液検査はもちろん重要です。
しかし、診断で最も大切なのは患者さん自身の症状です。
たとえFT/E2比が理論上理想的でも、症状が改善しなければ治療の見直しが必要です。
逆に、数値が多少基準から外れていても元気に生活できていれば必ずしも治療介入が必要とは限りません。
ホルモン治療では、検査値と症状の両方を見ながら調整することが重要です。
まとめ
遊離テストステロン/E2比(FT/E2比)は、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスを評価する新しい考え方です。
肥満やTRTではE2も変化するため、テストステロンだけでは分からない情報が得られる可能性があります。
一方で、現時点では
- 国際的な基準値
- 治療開始基準
- ガイドラインでの位置づけ
はまだ確立されていません。
そのため、FT/E2比は診療の参考となる一つの指標ではありますが、数値だけで判断するものではなく、
症状や他のホルモン値、体組成なども含めて総合的に評価することが大切です。
今後の研究によって、この指標の臨床的な意義がさらに明らかになることが期待されています。
男性更年期(LOH症候群)の検査・診断・保険診療については▶こちらで詳しく解説しています。 保険適用の具体的な条件は男性更年期の保険適用についてで詳しく解説しています。
参考文献
- Bhasin S, Brito JP, Cunningham GR, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018.
- Mulhall JP, Trost LW, Brannigan RE, et al. Evaluation and Management of Testosterone Deficiency: American Urological Association Guideline. J Urol. 2018.
- Appiah D, Luitel S, Nwabuo CC, Ebong I, Winters SJ. Low Endogenous Estradiol Levels Are Associated With Elevated Risk of Cardiovascular Disease Mortality in Young and Middle-Aged Men in the United States. Atherosclerosis. 2022.
- Finkelstein JS, Lee H, Burnett-Bowie SM, et al. Gonadal Steroids and Body Composition, Strength, and Sexual Function in Men. N Engl J Med. 2013.
- Corona G, Goulis DG, Huhtaniemi I, et al. European Academy of Andrology (EAA) Guidelines on Investigation, Treatment and Monitoring of Functional Hypogonadism in Males. Andrology. 2020.
- Burnett-Bowie SM, McKay EA, Lee H, et al. Effects of Aromatase Inhibition on Bone Mineral Density and Bone Turnover in Older Men With Low Testosterone Levels. J Clin Endocrinol Metab. 2009.