大手町の内科・男性更年期障害(テストステロン治療)専門クリニック
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ボディビルと成長ホルモン(hGH)



ボディビルで使われる成長ホルモン(HGH)は本当に筋肉を増やすのか?エビデンスと実際の使用者の声

「成長ホルモン(GH、HGH)を使えば筋肉が増える」「脂肪が落ちて、回復も良くなる」。

ボディビルやフィジークの世界では、成長ホルモンは代表的なパフォーマンス向上薬の一つとして語られています。一方で、健康な成人に成長ホルモンを投与した臨床研究を見ると、意外にも「筋力が大きく増える」という結果は得られていません。

では、成長ホルモンにはボディビルにおけるメリットが本当にあるのでしょうか。

今回は、健康な成人を対象とした研究と、実際のボディビルダーがインターネット上で語っている体験談を分けて考えてみます。

成長ホルモンは何をするホルモンなのか

成長ホルモンは脳下垂体から分泌されるホルモンで、成長期の身長の伸びだけでなく、成人においても脂質代謝、タンパク質代謝、骨・結合組織などの維持に関与しています。

筋肉への作用は、成長ホルモンそのものによる作用だけでなく、肝臓などで産生されるIGF-1(インスリン様成長因子1)を介した作用も重要です。

そのため、

成長ホルモン → IGF-1 → タンパク質合成・組織成長

という経路から、「成長ホルモンを投与すれば筋肉が増えるのではないか」と考えられてきました。

しかし、ここで重要なのは、

成長ホルモンが筋肉の代謝に作用することと、筋力やスポーツパフォーマンスが向上することは同じではない

ということです。

健康な若い成人に投与すると除脂肪体重は増える

健康で身体的に活動的な若年成人を対象とした研究では、成長ホルモン投与によって除脂肪体重(lean body mass)が増加することは比較的一貫して確認されています。

2008年に発表された系統的レビューでは、健康で若く身体的に活動的な人を対象とした27研究、303人のGH投与群を解析した結果、成長ホルモンによって除脂肪体重は平均約2.1 kg増加しました。

しかし、重要なのはその次です。

筋力や運動能力には明確な改善が認められませんでした。

むしろ、軟部組織の浮腫や疲労はGH投与群で多く認められています。

つまり、

「体重計上の除脂肪体重は増えるが、それがそのまま機能的な筋肉になるとは限らない」

ということです。

なぜ「除脂肪体重」が増えても筋力が増えないのか

成長ホルモンの研究を理解するうえで、ここは非常に重要です。

GHを投与すると水分、とくに細胞外水分が増加します。

健康な身体活動性の高い成人30人を対象としたランダム化比較試験では、GH投与によって1か月で除脂肪体重が5.3%増加しました。

ところが、その増加は主として細胞外水分量の増加によって説明され、筋肉そのものの同化作用は限定的と考えられました。

したがって、

「lean massが増えた=筋繊維が大幅に増えた」

と解釈するのは危険です。

これはボディビルダーがGHを使用した際に「体が大きくなった」と感じる場合にも関係します。

では脂肪は落ちるのか?

ここについては、筋力よりも比較的エビデンスがあります。

2017年の健康な若年成人を対象としたメタ解析では、GH投与によって

  • 除脂肪体重増加

  • 脂肪量減少

  • 脂肪分解の亢進

が認められました。

一方で、

  • 筋力

  • 最大酸素摂取量

については有意な改善が認められませんでした。

つまりGHは、

「筋力を大幅に上げる薬」というより、「体組成を変化させる薬」

と考えたほうが、現在の研究結果には合っています。

それでもボディビルダーがGHを高く評価する理由

ここからが臨床研究とボディビルダーの体験談の面白いところです。

実際にボディビル関連の掲示板を見ると、GH使用者が報告する効果は、必ずしも「ベンチプレスが急激に伸びた」というものではありません。

比較的よく見られるのは、

  • 体脂肪が落ちやすくなった

  • 特に腹部周辺が絞りやすくなった

  • 睡眠が良くなった

  • トレーニング後の回復が良くなった

  • 関節や腱の調子が良くなった

  • 肌や髪、爪の変化を感じる

  • 筋肉が張ったように感じる

といった体感です。

例えばRedditのHGH体験スレッドでは、長期間使用したという投稿者が「回復」「脂肪がつきにくくなった」「睡眠」などを主なメリットとして挙げています。

また、EliteFitnessのようなボディビル系フォーラムでも、長期使用者が「脂肪が落ちた」「睡眠が良くなった」「体調が良く感じる」といった体験を報告しています。

ただし、これらはあくまで個人の体験談です。

特にボディビルダーの場合、GH単独ではなくテストステロンなどのアナボリックステロイドと併用しているケースが非常に多いため、

「GHによって起こった効果なのか?」

を掲示板の体験談から判断することはできません。

「回復が良くなった」は本当なのか?

これは非常に興味深い部分です。

GHは筋肉だけでなく、コラーゲン代謝や結合組織にも作用します。そのため、ボディビルダーの間では「怪我の回復」「腱や関節の調子が良くなる」といった話がよくあります。

実際、GHには結合組織のタンパク質代謝を促進する作用があります。

ただし、

「GHを使えばスポーツ障害が治る」

というレベルの臨床エビデンスはありません。

実際の掲示板では、肩や腱などの故障からの回復目的で使用したという体験談もありますが、例えばある若いラグビー選手はGH使用後に著しい水分貯留を経験したと報告しています。

したがって、回復目的でのGH使用については、現在のところ「生物学的にはもっともらしいが、スポーツ傷害の治療として確立しているわけではない」という評価が妥当でしょう。

では、筋肉を増やす効果はないのか?

ここは少し複雑です。

GH単独では、

「筋力が明確に増える」というエビデンスは弱い

一方、

「体組成を変化させる作用」は明確にあります。

さらに、GHはボディビルダーが実際に使用しているような、テストステロンなどとの併用で研究されたデータが非常に少ないという問題があります。

興味深いランダム化比較試験では、96人のレクリエーションアスリートを対象として、GH、テストステロン、両者の併用、プラセボを比較しました。

GH単独では脂肪量が減少し、除脂肪体重も増加しましたが、その増加には細胞外水分の増加が含まれていました。

一方、テストステロンとの併用群では体細胞量の増加も認められ、スプリント能力についても改善が認められました。

このため、ボディビルダーが感じているGHの効果を「GH単独の作用」と考えることには限界があります。

ボディビルダーの掲示板では「高用量ほど効く」と語られるが……

インターネット上では、GHについて「少量を長期間」「高用量を短期間」など、さまざまな使用法が語られています。

実際、海外のボディビルフォーラムには高用量使用を報告する投稿もあります。

しかし、ここは医学的エビデンスとは明確に分ける必要があります。

健康な成人を対象とした臨床試験では、GHによる効果は「用量を増やせば増やすほど筋肉が増える」という単純な関係を示していません。

むしろGHの副作用は用量依存的に増えやすく、

効果と副作用の両方が増える

と考えるべきです。

最も多い問題は「水分貯留」

GH使用者が掲示板で頻繁に報告する副作用の一つが、

  • むくみ

  • 手のしびれ

  • 手根管症候群

  • 関節痛

  • 筋肉痛

などです。

これは単なる偶然ではありません。

GHにはナトリウム・水分を体内に保持する作用があるためです。

成人GH補充療法でも、浮腫、関節痛、筋肉痛、手根管症候群などはよく知られた副作用です。

ボディビルダーの掲示板でも、実際に「手がしびれる」「むくむ」「顔が変わった」という体験談は珍しくありません。あるGH使用者は、短期間で著しい水分貯留が起こり、顔貌まで変化したと報告しています。

もう一つ重要なのがインスリン抵抗性

GHには脂肪分解を促進する一方で、インスリン作用を阻害する方向の作用があります。

そのため、過剰なGHは

  • インスリン抵抗性

  • 高血糖

  • 耐糖能異常

  • 2型糖尿病

につながる可能性があります。

これはGHの長期乱用を考えるうえで非常に重要です。

実際、GH過剰状態である先端巨大症では、インスリン抵抗性や糖尿病が問題になります。

つまり、

「GHは脂肪を燃やすから糖代謝にも良い」

と単純に考えるのは間違いです。

脂肪分解作用とインスリン抵抗性は別の問題だからです。

長期使用で心配されるのが「小さな先端巨大症状態」

GHの長期的な安全性については、健康なボディビルダーを対象にした長期ランダム化試験が存在しないため、正確なリスクは分かっていません。

そこで医学では、GHが慢性的に過剰になっている「先端巨大症」が一つの参考になります。

先端巨大症では、

  • 顔貌変化

  • 手足の肥大

  • 関節障害

  • 高血圧

  • 心筋症

  • 睡眠時無呼吸

  • インスリン抵抗性・糖尿病

  • 手根管症候群

などが問題になります。

もちろん、医療目的で適正量を使用するGH療法と、ボディビル目的の高用量使用を同一視することはできません。

しかし、

「長期間GHを過剰に投与し続けると何が起こり得るのか」

を考えるモデルとして、先端巨大症は重要です。

「GHは筋肉を増やす薬」という理解は少し違う

現在の研究をまとめると、GHの特徴は、

脂肪減少作用:○
除脂肪体重増加:○
筋力増加:△~×
最大酸素摂取量改善:×
スプリント能力:△
水分貯留:○
インスリン抵抗性:悪化する可能性あり

というイメージが近いでしょう。

2017年のメタ解析でも、健康な若年成人では体組成の改善は認められましたが、筋力や有酸素運動能力の改善は認められていません。

したがって、

「GH=筋肉を増やして筋力を上げる薬」

という理解は、医学的には正確ではありません。

むしろ、

「体脂肪を減らしながら除脂肪体重を増やす方向に身体組成を変化させるホルモン」

と考えるほうが実態に近いでしょう。

それでもボディビル界でGHが人気なのはなぜか

ここには、臨床研究だけでは説明できない部分があります。

ボディビルでは、単純な筋力ではなく、

筋肉量 × 体脂肪率 × 見た目

が非常に重要です。

GHは筋力を大きく増やさなくても、

  • 脂肪を落とす

  • 除脂肪体重を増やす

  • 水分量を増やす

  • トレーニング後の回復感を改善する

といった作用によって、身体の「見た目」に影響する可能性があります。

そのため、

一般的なスポーツでは効果が限定的でも、ボディビルという競技では価値が相対的に高く感じられる

というのは十分理解できます。

これは「GHに効果がある」ということと、「GHが安全で推奨できる」ということを分けて考える必要がある好例です。

まとめ

健康な成人における成長ホルモン使用について、現在のエビデンスから最も妥当な結論は、

「GHは身体組成を変化させる作用はあるが、筋力を大きく向上させる薬ではない」

というものです。

特に、

  • 除脂肪体重↑

  • 脂肪量↓

  • 脂肪分解↑

については比較的再現性のあるデータがあります。

一方、

  • 筋力↑

  • 最大酸素摂取量↑

については明確なエビデンスがありません。

ボディビルダーの掲示板では、これに加えて「睡眠」「回復」「コンディショニング」などのメリットが頻繁に報告されていますが、これらはあくまでN=1の体験談であり、特に他のPEDとの併用が多いことから、そのまま科学的効果とはみなせません。

そして最大の問題は、健康な人がボディビル目的で長期間使用した場合の安全性について、質の高いデータがほとんどないことです。

GH過剰はインスリン抵抗性、浮腫、手根管症候群、関節症状などを引き起こし得ます。また、長期間の過剰曝露については先端巨大症で見られる心血管・代謝・睡眠・関節への影響が懸念されます。

なお、成長ホルモンは2026年の世界アンチ・ドーピング規程(WADA禁止表)でも禁止されています。

当院ではパフォーマンス向上目的の自費TRTについてもご相談いただけます。

参考文献

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