大手町の内科・男性更年期障害(テストステロン治療)専門クリニック
Home » コラム » PSAとテストステロン投与について

PSAとテストステロン投与について

前立腺がんとPSA|テストステロン補充療法(TRT)を受けるなら定期的な検査を

テストステロンを補充すると前立腺がんになる?

男性更年期障害(LOH症候群)の治療でテストステロン補充療法(TRT)を受ける患者さんから、

「テストステロンを打つと前立腺がんになりやすくなりませんか?」

と質問されることがあります。

これは、TRTを検討する方にとって非常に気になる問題だと思います。

結論から言うと、

現在のエビデンスでは、適切な診断のもとで行うTRTによって前立腺がんの発症リスクが明らかに上昇するとは考えられていません。

実際、5,000人以上を対象とした大規模ランダム化比較試験でも、TRT群とプラセボ群で前立腺がんの発症率に有意差は認められませんでした。

では、なぜTRTではPSA検査が重要なのでしょうか。

その理由を説明します。


PSAとは何の検査?

PSAとは、

Prostate Specific Antigen(前立腺特異抗原)

の略です。

前立腺から分泌されるタンパク質で、血液検査によって測定できます。

PSAは前立腺がんだけで上昇するわけではありません。

例えば、

  • 前立腺肥大症
  • 前立腺炎
  • 射精
  • 前立腺への刺激

などでも上昇することがあります。

そのため、

「PSAが高い=前立腺がん」ではありません。

一方で、PSAが高い場合には前立腺がんが隠れている可能性があるため、必要に応じて泌尿器科で精密検査を行います。

つまりPSAは、

前立腺がんを発見するための重要なスクリーニング検査

の一つなのです。


なぜTRTを始める前にPSAを測定するの?

テストステロンは前立腺の機能にも関係しています。

そのためTRTを開始する際には、

「すでに前立腺がんが存在していないか?」

を確認しておくことが重要です。

米国泌尿器科学会(AUA)のテストステロン欠乏症ガイドラインでは、40歳を超える男性ではTRT開始前にPSAを測定することが推奨されています。

また、Endocrine Societyのガイドラインでも、TRT開始前に前立腺がんリスクを評価することが推奨されています。特に55~69歳の男性や前立腺がんリスクが高い男性では、PSAなどによるモニタリングについて相談することが推奨されています。

つまり、

TRTを始める前のPSA測定は「TRTががんを起こすから」ではなく、「すでに存在している可能性のある前立腺がんを見逃さないため」

に行うものです。


リーレクリニックでは初回のPSA検査を重視しています

当院でも、TRTを開始する患者さんについては、初回診療時にPSAを確認することを基本としています。

PSAが正常範囲であれば、

「前立腺がんの心配はない」

と完全に断定できるわけではありませんが、少なくともTRTを開始する際の重要な確認材料になります。

一方、PSAが高い場合には、

  • 再検査
  • 前立腺エコー
  • 前立腺の造影MRI
  • 泌尿器科への紹介
  • 必要に応じた生検

など、状況に応じた追加検査を行います。

PSAが高かったからといって、すぐに「がん」というわけではありません。

まずは原因を確認することが大切です。


2回目以降のPSAはどうする?

ここは、TRTを受ける患者さんからよく質問されるところです。

初回のPSAが正常であれば、その後のPSA測定については、年齢や前立腺がんのリスク、治療状況などを考慮して判断します。

日本の保険診療では、単にTRTの安全確認を目的としてPSAを繰り返し測定する場合、初回と同じようには保険診療として認められていません。

そのため2回目以降のPSA検査が自費診療となる場合があります。

「正常だったから、もう調べなくていいのでは?」

と思われる方もいるかもしれません。

しかし、正常だったPSAが、その後もずっと正常であるとは限りません。

年齢とともに前立腺がんのリスクは変化していきます。

また、TRT中はテストステロン値だけではなく、前立腺の状態も定期的に確認しておくことが安心につながります。

そのため、費用はかかっても、定期的にPSAを確認することには意味があります。


TRTでPSAは上昇することがある

TRTを開始すると、PSAが多少上昇することがあります。

これは必ずしも「前立腺がんになった」という意味ではありません。

TRAVERSE試験でも、TRT群ではプラセボ群よりPSAの上昇が大きく認められました。

そのため、

「PSAが少し上がった=前立腺がん」

と考える必要はありません。

一方で、PSAが大きく上昇した場合には、

「TRTによる変化なのか」

「前立腺炎や前立腺肥大症によるものなのか」

「前立腺がんが隠れていないか」

を確認する必要があります。


どのくらいPSAが上がったら注意する?

Endocrine Societyのガイドラインでは、TRT開始後12か月以内に、

PSAが治療開始前より1.4 ng/mLを超えて上昇した場合

あるいは、

PSAが4.0 ng/mLを超えた場合

などには、再評価を推奨しています。

ただし、これは「その数値になったら前立腺がん」という意味ではありません。

あくまで、

「一度、専門的に確認したほうがよい目安」

です。

PSAは変動する検査ですから、必要に応じて再検査を行い、経時的な変化を見ることも重要です。


テストステロンを投与すると前立腺がんになりやすい?

ここが最も重要なポイントです。

以前は、

「テストステロンを投与すると前立腺がんが増える」

という考え方が広く信じられていました。

しかし、現在ではこの単純な考え方は支持されていません。

複数の研究をまとめたメタ解析では、TRTによって前立腺がんの発症が有意に増加するという結果は得られていません。

さらに、2023年に発表されたTRAVERSE試験では、5,200人以上の男性を対象としてTRTとプラセボを比較しました。

前立腺がんは、

  • TRT群:12例(0.5%)
  • プラセボ群:11例(0.4%)

で、統計学的な有意差はありませんでした。

また、高グレード前立腺がんについても、

  • TRT群:5例
  • プラセボ群:3例

で、有意差は認められませんでした。

したがって、

「TRTをすると前立腺がんになりやすい」と考える根拠は現在のところありません。


それでも「定期的なPSA」が重要な理由

では、前立腺がんのリスクが増えないのであれば、なぜPSAを測るのでしょうか。

答えはシンプルです。

TRTをしているかどうかにかかわらず、年齢とともに前立腺がんは発症し得るからです。

そしてTRTを行っている場合には、テストステロンによってPSAが変化することがあります。

そのため、

「TRTをしているから危険」なのではなく、「TRTをしているからこそ、前立腺の状態を定期的に確認しておく」

という考え方が大切です。

これは「がんになるかもしれない」と不安になるための検査ではありません。

何も問題がないことを確認しながら、安心して治療を続けるための検査

と考えていただくとよいでしょう。


「未分化型のがんが増える」という話について

テストステロンと前立腺がんについて調べていると、

「TRTをしていると、発症した場合に悪性度の高い前立腺がんが多い」

という情報を目にすることがあります。

しかし、現時点では、TRTによって高グレード・未分化型の前立腺がんが増えることが確立しているわけではありません。

むしろ、現在最も質の高い大規模ランダム化試験の一つであるTRAVERSE試験では、高グレード前立腺がんの発症数自体が少なく、TRT群とプラセボ群に統計学的な差はありませんでした。

ただし、TRAVERSE試験の平均治療期間は約22か月であり、何十年にもわたる長期的な影響まで完全に明らかになったわけではありません。

そのため、

「TRTは絶対に前立腺がんに影響しない」

と断言するのではなく、

現時点では明らかな発症リスク増加は確認されていないが、長期的な観察と定期的なPSA測定を行う

というのが最も適切な考え方です。


PSAは「怖い検査」ではありません

前立腺がんという言葉を聞くと、

「PSAを測ったら、がんが見つかってしまうのでは?」

と不安になる方もいます。

しかし、PSA検査の目的は、

がんを見つけて怖がることではなく、早い段階で問題がないか確認すること

です。

前立腺がんは、早期に発見されれば治療の選択肢も多くあります。

TRTを受けている方にとっても、

「PSAが正常だった」

「今回も大きな変化がなかった」

ということを確認できること自体が、安心材料になります。


TRTを受けるなら「テストステロンだけ」を見ない

TRTでは、

  • テストステロン
  • ヘマトクリット
  • PSA
  • 症状
  • 血圧
  • 体重
  • 排尿症状

などを総合的に確認していくことが大切です。

テストステロンの数値だけを上げることがTRTの目的ではありません。

不足しているテストステロンを適切な範囲に補充しながら、安全に治療を継続すること

が重要です。


まとめ

テストステロン補充療法(TRT)については、

「テストステロンを投与すると前立腺がんになる」

というイメージを持たれている方も少なくありません。

しかし、現在のエビデンスでは、適切に管理されたTRTによって前立腺がんの発症リスクが明らかに増加することは確認されていません。

一方で、前立腺がんは年齢とともに発症する可能性がある病気です。

そのため、TRTを開始する前にはPSAを確認し、治療中も必要に応じて定期的にPSAを測定することが重要です。

当院では、TRT開始時にはPSAを確認することを基本としています。初回検査が正常であっても、その後の定期的な確認をおすすめしています。

2回目以降のPSA検査は、状況によって自費診療となる場合があります。

「自費なら測らなくてもいい」と考えることもできますが、TRTを安全に長く続けるためには、定期的に前立腺の状態を確認しておくことをおすすめします。

過度に心配する必要はありません。

TRTは前立腺がんを増やす治療と考えられているわけではありません。だからこそ、必要な検査を定期的に行い、安心して治療を続けていくことが大切です。


参考文献

  1. Bhasin S, Brito JP, Cunningham GR, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715-1744.
  2. Mulhall JP, Trost LW, Brannigan RE, et al. Evaluation and Management of Testosterone Deficiency: AUA Guideline. J Urol. 2018;200(2):423-432.
  3. Lincoff AM, Bhasin S, Flevaris P, et al; TRAVERSE Study Investigators. Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy. N Engl J Med. 2023;389(2):107-117.
  4. Cunningham GR, et al. Prostate Safety Events During Testosterone Replacement Therapy in Men With Hypogonadism: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2348680.
  5. Cui Y, Zong H, Yan H, Zhang Y. The effect of testosterone replacement therapy on prostate cancer: a systematic review and meta-analysis. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2014;17:132-140.
  6. Morgentaler A, Traish AM. Shifting the paradigm of testosterone and prostate cancer: the saturation model and the limits of androgen-dependent growth. Eur Urol. 2009;55(2):310-320.
  7. Traish AM, Morgentaler A. Testosterone and prostate cancer: an historical perspective on a modern myth. Eur Urol. 2009.
  8. Prostate Risk and Monitoring During Testosterone Replacement Therapy: TRAVERSE Prostate Safety Substudy. J Clin Endocrinol Metab. 2024.
電話 03-5224-6672 LINEで予約