大手町の内科・男性更年期障害(テストステロン治療)専門クリニック
ホーム » コラム » 社会的ステイタス・年収とテストステロン

社会的ステイタス・年収とテストステロン

社会的ステータス・年収とテストステロン――「成功する男性ほどテストステロンが高い」は本当か?

「テストステロンが高い男性は仕事ができる」

「年収が高い男性ほどテストステロンも高い」

「社会的に成功した男性は男性ホルモンが多い」

インターネットでは、このような話を目にすることがあります。

実際、テストステロンと社会的地位・競争・リーダーシップには一定の関連が研究されています。

ただし、医学的に見ると話はそれほど単純ではありません。

重要なのは、テストステロンが高いから成功するのか、それとも社会的に成功した結果としてテストステロンが変化するのかという問題です。

現在の研究から見えてきたのは、テストステロンと社会的ステータスには、かなり複雑な「双方向の関係」があるということです。


テストステロンは「社会的地位」と関係するホルモン

テストステロンというと、筋肉、性欲、勃起、ひげなどをイメージする人が多いでしょう。

しかし、テストステロンの重要な作用の一つとして研究されているのが、社会的な地位(social status)を獲得・維持するための行動です。

ここでいう「地位」は、単純な暴力や攻撃性だけを意味しません。

例えば、

  • 競争に参加する
  • リスクを取る
  • 自分の能力を示す
  • 他人から評価されることを目指す
  • リーダーシップを取る
  • 自分の社会的ポジションを守る
  • 地位を失うことを避ける

といった行動も含まれます。

テストステロンと人間の社会行動をまとめたレビューでは、テストステロンの作用を「他人を支配するためのホルモン」というより、社会的地位を獲得・維持するための行動を調整するホルモンとして捉える考え方が提唱されています。

つまり、

テストステロン=攻撃性のホルモン

という理解よりも、

テストステロン=社会的な競争・地位に対する動機づけに関係するホルモン

と考えた方が現在の研究には近いのです。


テストステロンが高いと「出世」するのか?

ここが最も重要なポイントです。

実は、これはまだ証明されていません。

企業で働く男性を調べた研究では、基礎テストステロン値と管理職であること、部下の人数、所得、組織内の地位などには明確な関連が認められませんでした。

さらに、この研究を含む男性・女性の9研究、計1,103人を対象としたメタ解析でも、基礎テストステロンとリーダーシップとの関連は確認されませんでした。

したがって、

「テストステロンが高い男性は会社で出世する」

と断定することはできません。

実際の社会的成功には、

  • 知能
  • 教育
  • 専門能力
  • 性格
  • コミュニケーション能力
  • 家庭環境
  • 人脈
  • 景気や産業構造
  • 健康状態

など、非常に多くの要因が関係します。

テストステロンは、その中の一つの生物学的要素にすぎません。


「年収」とテストステロンの関係は?

では、年収についてはどうでしょうか。

ここは非常に興味深い研究があります。

英国の大規模データを使った研究では、社会経済的な地位とテストステロンの関係が検討されました。

教育、雇用状況、世帯所得、個人所得などを調べたところ、観察研究では必ずしも一貫した関連が確認されませんでした。

さらに研究者たちは、遺伝的情報を利用したメンデルランダム化解析によって、

「テストステロンが高いことが所得や雇用状況を改善するのか?」

という因果関係まで検討しました。

その結果、テストステロンが所得、雇用、教育などの社会経済的地位を大きく改善するという証拠は乏しい、という結果になりました。

つまり、

「テストステロンが高い→高年収になる」

という単純な因果関係は、現在のところ支持されていません。


しかし「テストステロン→競争行動」は研究されている

では、なぜ「テストステロンの高い男性は成功する」という話が生まれたのでしょうか。

理由の一つは、テストステロンが競争そのものへの動機づけに関係することが研究されているからです。

例えば、健康な男性173人を対象にした実験では、テストステロン投与によって、特定の社会的状況において「地位を求めて競争する」動機が高まりました。

ただし、その効果は全員に同じように起こったわけではありません。

特に、社会的地位が低く、その地位が不安定な状況では、地位を高めるための競争動機が強くなることが確認されています。

一方で、地位が安定している場合には反応が異なることもありました。

ここがテストステロン研究の面白いところです。

テストステロンは、

「常に攻撃的になる」

という単純な作用ではありません。

「今の自分の社会的地位をどうするべきか」という状況に応じて、競争行動を変化させる

可能性があるのです。


成功するとテストステロンが上がることもある

さらに重要なのは、因果関係が逆方向にも存在する可能性です。

つまり、

テストステロンが高い → 競争行動が変わる

だけではなく、

競争に勝つ・社会的評価が上がる → テストステロンが変化する

という関係です。

実際、自然な社会集団を長期間追跡した研究では、集団形成初期に高い「prestige(尊敬・評価に基づく社会的地位)」を獲得した男性では、その後2か月間にテストステロンが上昇する傾向が観察されました。

逆に、prestigeが低かった男性ではテストステロンが低下またはほとんど変化しませんでした。

これは非常に重要な発見です。

つまり、

「テストステロンが高いから成功する」

という一方向のモデルではなく、

テストステロン → 競争・地位獲得 → 社会的成功 → テストステロン変化

という循環が存在する可能性があります。


「勝者効果」という現象もある

スポーツなどの競争では、勝敗によってテストステロンが変化することも研究されています。

男性の競争実験では、競争の前後でテストステロンが変化し、その変化には勝敗だけでなく、

  • 相手がどの程度強そうか
  • 自分にとってその競争がどれほど重要か
  • 社会的地位がどう変化したと感じるか

などが関係します。

つまり、単純に

勝つ=テストステロン上昇

というわけでもありません。

「自分の社会的ポジションがどう変化したのか」という心理的な意味づけが重要なのです。

勝者効果(Winner Effect)とは
競争に勝った側でテストステロンが変化しやすいという現象。ただし単純な「勝てば上がる」ではなく、相手の強さ・自分にとっての重要度・地位変化の実感など、心理的な要因が大きく影響することが分かっています。


高テストステロン=「偉い人」ではない

ここは誤解しないことが重要です。

例えば、

  • 年収3000万円
  • 年収1000万円
  • 年収500万円

という3人がいたとして、

「年収3000万円の人が最もテストステロンが高い」

とは言えません。

また、

「会社社長だからテストステロンが高い」

とも言えません。

実際、職場での研究では管理職と非管理職で基礎テストステロンに明確な差がなく、所得や組織内の地位との関連も認められていません。

社会的ステータスは、テストステロンだけでは説明できないからです。


では、テストステロンが高い男性にはどんな特徴があるのか?

現在の研究から比較的言いやすいのは、

「社会的地位そのもの」よりも、「地位をめぐる競争への反応」にテストステロンが関係する

ということです。

例えば、

テストステロン研究で考えられる作用 社会生活での表現
競争への動機 勝負を避けない
地位獲得への動機 評価・昇進を求める
リスクへの反応 新しいことに挑戦する
優位性の維持 自分のポジションを守る
競争後の内分泌反応 勝敗によって気分・行動が変化
社会的評価への反応 周囲からの尊敬・評価に反応する

ただし、これらは必ずしも「成功」を意味しません。

競争心が強くても、判断を誤れば失敗します。

リスクを取って成功する人もいれば、リスクを取りすぎて失敗する人もいます。

そのため、

テストステロンは「成功そのもの」を作るホルモンではなく、成功や地位に関係する行動特性の一部を調整している可能性がある

と考えるのが適切です。


「高年収男性=高テストステロン」という話が生まれるもう一つの理由

もう一つ考えなければならないのが、健康状態と社会経済的地位の交絡です。

テストステロンは年齢、肥満、睡眠、慢性疾患、運動習慣、栄養状態などの影響を受けます。

一方、所得や社会的地位も、

  • 食事
  • 運動
  • 睡眠
  • 医療アクセス
  • ストレス
  • 肥満
  • 喫煙
  • 飲酒

などと強く関係します。

そのため、

「高所得者のテストステロンが高い」

という観察結果が仮に得られても、

高所得だからテストステロンが高いのか、健康状態が良いからテストステロンが高いのか、あるいは別の要因が共通しているのか

を区別しなければなりません。

実際、大規模な遺伝学的研究では、テストステロンが社会経済的地位を大きく決定するという因果関係は支持されませんでした。


テストステロンは「社会的ステータスの結果」でもある

ここは一般の方には意外かもしれません。

テストステロンは、社会的環境によっても変化します。

例えば、

勝つ

自信・社会的評価が上がる

競争への意欲が高まる

テストステロンが変化する

という循環が起こる可能性があります。

逆に、

敗北

社会的地位の低下

競争意欲の低下

テストステロンが変化する

という方向も考えられます。

そのため、テストステロンを「その人の生涯に固定された能力値」と考えるのは適切ではありません。


テストステロンが高ければ年収を上げられるのか?

結論としては、そう単純には考えられません。

大規模な遺伝学的研究でも、テストステロンが所得や雇用などの社会経済的地位を大きく改善するという証拠は得られていません。

一方で、実験研究ではテストステロンが状況に応じた競争・地位追求行動に影響することがあります。

したがって、

テストステロンが高ければ成功する

ではなく、

テストステロンは、社会的地位をめぐる競争に対する「行動の出力」を調整する一因かもしれない

と考える方が科学的には正確です。


では、テストステロンを上げれば社会的に成功できる?

これはさらに慎重に考える必要があります。

医学的なテストステロン補充療法(TRT)は、テストステロン欠乏症が確認された男性に対する治療です。

正常なテストステロン値の男性が、

「仕事で成功したい」

「年収を上げたい」

「もっと堂々としたい」

という目的だけでテストステロンを投与することを支持する医学的エビデンスはありません。

むしろ、テストステロン投与による行動変化は状況依存的であり、競争性やリスク選択が必ずしも良い結果につながるとは限りません。2026年の系統的レビューでも、テストステロンと意思決定・リスク行動の関係は社会的文脈や個人特性によって大きく変化し、一貫した単純な効果ではないとされています。


「社会的に成功する男性」とテストステロンをどう考えるべきか

ここまでの研究をまとめると、次のように整理できます。

① テストステロンは社会的地位と無関係ではない

競争、地位獲得、優位性の維持などとの関連が研究されています。

② しかし「高テストステロン=高年収」ではない

大規模研究では、テストステロンが所得や教育、雇用などを直接決定するという明確な証拠はありません。

③ テストステロンの作用は状況依存

地位が高いのか低いのか、安定しているのか不安定なのか、相手が誰なのか、ストレスが高いのかなどによって行動への影響が変わります。

④ 社会的成功そのものがテストステロンを変化させることもある

競争で勝つ、尊敬される、社会的地位が上がる、といった経験がテストステロン変化につながる可能性があります。

⑤ 「テストステロン→成功」だけではなく「成功→テストステロン」も考える必要がある

テストステロンと社会的ステータスは、相互作用する可能性があります。


当院からのメッセージ

テストステロンは、単に「筋肉を増やす男性ホルモン」ではありません。

性欲、筋肉、骨、赤血球など身体的な作用に加えて、競争、社会的評価、地位獲得などの行動にも関係することが研究されています。

しかし、

「テストステロンが高い男性ほど年収が高い」

「テストステロンを上げれば出世できる」

というほど単純なものではありません。

むしろ現在の研究から見えてくるのは、

テストステロンは、社会的地位そのものを決めるホルモンではなく、社会的な競争や地位の変化に対する行動・心理反応を調整するホルモンの一つである

という姿です。

また、テストステロンは社会環境からも影響を受けます。

仕事、競争、人間関係、成功や失敗などの経験が、長期的にはテストステロンの状態にも影響する可能性があります。

そのため、男性のテストステロンを考えるときには、血液検査の数字だけではなく、年齢、体脂肪、睡眠、運動、ストレス、慢性疾患、性生活、そして生活環境全体を含めて評価することが重要です。

もしテストステロン低下が疑われる症状がある場合には、朝のテストステロン測定を含め、必要な検査を行ったうえで、治療が必要な状態なのかを判断することが大切です。


症状の程度によっては、テストステロン低下が医学的な治療の対象になることもあります。男性更年期の保険適用となる条件もあわせてご確認ください。


参考文献

  1. Eisenegger C, Haushofer J, Fehr E. The role of testosterone in social interaction. Trends Cogn Sci. 2011;15(6):263-271.
  2. van der Meij L, Buunk AP, van de Sande JP, Salvador A. Basal testosterone, leadership and dominance: A field study and meta-analysis. Psychoneuroendocrinology. 2016;67:1-9.
  3. Cheng JT, Kornienko O, Granger DA. Prestige in a large-scale social group predicts longitudinal changes in testosterone. J Pers Soc Psychol. 2018;114(6):924-944.
  4. Losecaat Vermeer AB, Krol I, Gausterer C, et al. Exogenous testosterone increases status-seeking motivation in men with unstable low social status. Psychoneuroendocrinology. 2020;113:104586.
  5. Ong D, et al. Testosterone and socioeconomic position: Mendelian randomization in 306,248 men and women in UK Biobank. Sci Rep. 2021.
  6. Mehta PH, Jones AC, Josephs RA. The social endocrinology of dominance: basal testosterone predicts cortisol changes and behavior following victory and defeat. J Pers Soc Psychol. 2008;94(6):1078-1091.
  7. Mehta PH, Prasad S. The dual-hormone hypothesis: a brief review and future research agenda. Curr Opin Behav Sci. 2015;3:163-168.
  8. Khosravi S, Kogler L, Derntl B, Heysieattalab S. The influence of endogenous and exogenous sex steroid hormones and social hierarchy on decision-making: A systematic review. Psychoneuroendocrinology. 2026;188:107860.

テストステロン・男性更年期のご相談は、大手町の男性更年期外来へ

疲れ・意欲低下・性欲低下などが続く方は、まずAMSセルフチェックで症状の程度を確認できます。当院は総合内科をベースに、保険診療を基本とした男性更年期外来を行っています(大手町駅C2b出口直結・徒歩1分)。

LINEで予約 電話 03-5224-6672

電話 03-5224-6672 LINEで予約