ドーピングとの終わらない戦い|スポーツ界を変えた歴史的事件とWADAルール
ドーピングは「薬を使うこと」だけではありません
ドーピングというと、
「禁止薬物を使うこと」
を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし現在のWADA(世界アンチ・ドーピング機構)のルールでは、
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禁止薬物の使用
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禁止薬物の所持
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検査拒否
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尿のすり替え
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居場所情報(Whereabouts)の虚偽申告
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ドーピングへの関与や隠蔽
まで広く違反とされています。
スポーツの歴史は、
「いかに能力を高めるか」と
「いかに公平性を守るか」
のいたちごっこの歴史でもあります。
今回は、スポーツ界を大きく変えた代表的な事件をご紹介します。
ジョン・ジョーンズ「ケージの下に隠れた」
UFC、総合格闘技史上最高の選手の一人と評価されるジョン・ジョーンズ。
最も有名な逸話の一つが、
「抜き打ち検査員が来たのでジムのケージの下に隠れた」
という話です。
当初は元UFC王者チェール・ソネンによる暴露であり、
半ば都市伝説のように語られていました。
しかし2020年、
ジョーンズ本人がSNSで
「本当だった」
と認めました。
本人によれば、
当時は大麻を使用した直後であり、
ネバダ州アスレチックコミッションの検査を避けたかったとのことです。
ただし、
当時の検査内容や本当にそれだけが理由だったのかについては現在も議論があります。
この出来事は、
「検査から逃げること自体が重大な問題」
であることを世間に印象付けました。
ヴァンダレイ・シウバ「検査員から逃走」
こちらは都市伝説ではなく、
公式記録として残っています。
2014年ネバダ州アスレチックコミッションの抜き打ち検査員がジムを訪れた際、ワンデレイ・シウバ選手は検査を拒否し、その場を離れました。
現在のアンチ・ドーピング規則では、
検査拒否や逃亡は、陽性反応と同等の重大違反として扱われます。
薬物が検出されなくても、検査から逃げること自体が処分対象となる代表例です。
ベン・ジョンソン事件
1988年ソウルオリンピック。
100m決勝で世界新記録を樹立したベン・ジョンソン選手は、スタノゾロール陽性となり金メダルを剥奪されました。
その後の証言では陣営は
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薬剤の半減期
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投与タイミング
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検査日程
まで計算していたとされています。
この事件は、近代スポーツにおけるドーピング対策強化の出発点となりました。
東ドイツ国家ドーピング
1970〜80年代東ドイツでは国家主導で
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女子水泳
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陸上競技
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自転車競技
などの選手へアナボリックステロイドが投与されていました。
大会前には
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投与中止時期
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薬剤変更
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検査回避
まで計画されていました。
ベルリンの壁崩壊後、国家資料の公開によって実態が明らかとなり、スポーツ史上最大級の組織的ドーピング事件として知られています。
ロシア国家ドーピング
2014年ソチオリンピックでは、映画のような方法による組織的不正が発覚しました。
調査報告では、
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検査室の壁に穴を開ける
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夜間に尿サンプルを交換する
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国家機関が関与する
など、検査そのものを改ざんしていたことが認定されました。
この事件は、WADA改革の大きな契機となりました。
ランス・アームストロング事件
ツール・ド・フランス7連覇を達成したランス・アームストロング選手。
長年陽性反応はありませんでしたが、USADAの詳細な調査によりチームぐるみで
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EPO
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自己血輸血
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成長ホルモン
などを使用していたことが認定されました。
さらに、検査日程や血液データを綿密に管理し、長期間検査を回避していたとされています。
最終的に全タイトルが剥奪されました。
「マー軍団」の逸話
1990年代の中国女子長距離チーム、いわゆる「マー軍団」は驚異的な成績で世界を席巻しました。
後年、薬物使用を示唆する証言や告発が報じられています。
一方で、
「山奥へ逃げて検査団が帰るまで薬を抜いていた」
という有名な逸話については、
信頼できる公的資料で確認された事実ではありません。
スポーツ界では広く語られている話ですが現時点では伝聞として扱うのが適切です。
なぜWhereabouts(居場所情報)が必要なのか
現在、国際レベルの選手は
Whereabouts(居場所情報)
を登録する義務があります。
これは毎日一定時間、どこにいるかを事前に申告する制度です。
この制度が導入された背景には、過去に
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合宿所を転々とする
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山奥へ移動する
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検査員から逃げる
など、抜き打ち検査を避ける事例が相次いだことがあります。
現在では、12か月以内に3回の居場所情報違反や検査未了があると、陽性反応がなくてもアンチ・ドーピング規則違反となる可能性があります。
「逃げること」もドーピング違反
現在のアンチ・ドーピング規則では違反は薬物だけではありません。
例えば、
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検査拒否
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検査妨害
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サンプル改ざん
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虚偽申告
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他人の尿を使う
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ドーピング隠蔽
なども重大な違反となります。
つまり、「陽性にならなければ問題ない」という考え方は、現在では通用しません。
当院からのメッセージ
ドーピングの歴史は、
「より強くなりたい」という欲求と、
「公平な競技を守る」という理念の戦いでもあります。
過去には、
検査を避けるために
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隠れる
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逃げる
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サンプルを改ざんする
といった事件が繰り返されてきました。
その結果、現在のWADAルールは非常に厳格になっています。
一方で、医学的に必要なテストステロン補充療法(TRT)やホルモン治療は、
競技スポーツでは治療使用特例(TUE:Therapeutic Use Exemption)が認められる場合がありますが、競技団体や競技レベルによって要件は異なります。
競技を続けている方は、自己判断で治療を開始するのではなく、事前に所属競技団体や専門医へ相談することが重要です。
スポーツは、健康で長く楽しむことにも大きな価値があります。
競技力向上を目指す場合も、十分な睡眠、栄養、トレーニング、リカバリーといった科学的根拠のある方法を積み重ねることが、結果として最も確実な近道と言えるでしょう。
参考文献
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World Anti-Doping Agency (WADA). World Anti-Doping Code 2021.
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McLaren R. The Independent Person Report (McLaren Report): The Russian Doping Investigation. WADA. 2016.
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United States Anti-Doping Agency (USADA). Reasoned Decision: United States Anti-Doping Agency v. Lance Armstrong. 2012.
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Yesalis CE, Bahrke MS. History of Doping in Sport. Performance-Enhancing Substances in Sport and Exercise. 2020.
-
Franke WW, Berendonk B. Hormonal Doping and Androgenization of Athletes: A Secret Program of the German Democratic Republic Government. Clin Chem. 1997.
-
International Testing Agency (ITA). Whereabouts Guide for Athletes.
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World Anti-Doping Agency (WADA). International Standard for Testing and Investigations (ISTI).
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United States Anti-Doping Agency (USADA). Athlete Guide to Anti-Doping.