美容整形で作った筋肉と、筋トレで作った筋肉。健康寿命まで考えるならどちらを選ぶ?
最近、美容医療の世界では「身体をデザインする」施術が増えています。
女性のお尻の形を整える脂肪注入、男性の腹筋を強調する「アブドミナルエッチング」、肩や胸などの輪郭を強調するボディメイクなど、トレーニングだけでは作りにくい体型を美容外科的に作る方法があります。
最近では美容整形を受けてコンテストに出場し、タイトル剥奪となって話もあるそうです。
もちろん、美容整形そのものを否定する必要はありません。
しかし、もし目的が、
-
お尻を大きくしたい
-
腹筋を割って見せたい
-
肩幅を広く見せたい
-
年齢を重ねても若々しい身体を維持したい
ということであれば、一度考えてほしいことがあります。
それは、
見た目だけを作るのか、それとも、その見た目を生み出す「身体の機能」まで作るのか
という違いです。
美容整形で「筋肉の形」を作ることはできる
例えば、腹筋を強調する「アブドミナルエッチング」は、脂肪吸引によって腹壁の皮下脂肪を部分的に除去し、腹直筋の溝を強調することで、いわゆる「シックスパック」のような外観を作る手術です。
実際に、男性を含む患者を対象とした報告があります。
つまり、腹筋を十分に鍛えなくても「腹筋が割れて見える身体」を作ることは技術的には可能です。
しかし、ここには重要な違いがあります。
脂肪を除去して腹筋を浮き上がらせても、
-
腹筋の筋力が上がる
-
体幹の機能が上がる
-
スクワットが強くなる
-
転倒しにくくなる
-
骨密度が上がる
といった効果が得られるわけではありません。
作られるのは基本的に外観です。
お尻や肩も同じ
脂肪注入によって、お尻や身体の特定の部位のボリュームを増やすこともできます。
一方、筋トレで臀部や肩を発達させれば、
「見た目が変わる」+「その筋肉が実際に働く」
という二つの変化が起こります。
例えば臀部を鍛えれば、股関節を伸ばす力が向上します。
スクワット、ヒップスラスト、ランジなどを継続すれば、単純に「お尻が大きくなる」だけではありません。
立ち上がる、階段を上る、走るなど、日常生活に必要な身体機能そのものに関係してきます。
これは美容整形では代替できません。
筋トレは「見た目を作る健康投資」でもある
筋トレの最大のメリットは、筋肉を大きくすることだけではありません。
年齢を重ねると、筋肉量と筋力は徐々に低下します。
この状態が進行すると、サルコペニアにつながり、歩行能力や立ち上がり能力などの身体機能が低下し、転倒やフレイルのリスクにもつながります。
そこで重要になるのがレジスタンストレーニングです。
高齢者を対象とした複数のRCTをまとめたメタ解析では、レジスタンストレーニングによって筋力、筋肉量、身体機能などが改善することが確認されています。
つまり筋トレは、
「筋肉を見せるための運動」ではなく、「将来の身体機能を残すための運動」
なのです。
75歳を超えても筋肉は増やせる
「筋トレは若いうちにやるもの」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、これは正しくありません。
75歳以上の非常に高齢の人を対象にしたメタ解析でも、レジスタンストレーニングによって筋力が改善し、筋肉のサイズにも効果が認められています。
つまり、
「もう年だから筋トレしても無駄」
ではありません。
むしろ、年齢を重ねるほど筋力を維持する価値は大きくなります。
骨も「使わない」と弱くなる
もう一つ、筋トレの大きなメリットがあります。
それが骨への刺激です。
骨は単なる硬い構造物ではありません。
身体に加わる荷重や筋肉から伝わる力に応じて、骨の強度も変化します。
高齢者を対象としたRCTのメタ解析では、プログレッシブ・レジスタンストレーニングによって下肢筋力が改善するとともに、股関節・大腿骨周辺の骨密度も改善することが示されています。
したがって筋トレは、
筋肉 → 筋力 → 身体機能 → 骨への荷重
という形で、加齢による身体機能低下に対抗することができます。
「見た目の筋肉」と「機能する筋肉」は違う
ここが今回、一番伝えたいポイントです。
美容整形によって、
筋肉があるように見える身体
を作ることはできます。
しかし、筋肉そのものが発達したわけでなければ、筋力や身体機能まで同じように向上するわけではありません。
逆に、筋トレによって作られた身体は、
筋肉が大きい
↓
筋力が強い
↓
重いものを持てる
↓
立ち上がれる
↓
歩ける
という機能を伴っています。
見た目と機能が同時に変わるのです。
さらに重要なのが「テストステロン」です
ここからは男性にとって特に重要な話です。
テストステロンが低下している、男性更年期障害の人では、
-
性欲の低下
-
活力の低下
-
疲れやすさ
-
気分の落ち込み
-
筋肉量・筋力の低下
などがみられることがあります。
そして、こうした状態では、
「筋トレをしたほうがいいのは分かっている。でも、そもそも運動する気になれない」
ということが起こり得ます。
これは単なる意志の弱さとは限りません。
テストステロンは、性機能だけではなく、気分、活力、身体組成などさまざまな生理機能に関係しています。
テストステロンが低い男性では、TRTが「運動を始めるきっかけ」になることがある
テストステロンが明らかに低く、症状を伴う男性では、適切な診断のもとでテストステロン補充療法(TRT)が検討されます。
自費で高用量の治療を行うことも可能です。
TRTによってテストステロンが正常化すると、性欲や気分、活力などが改善する男性がいます。
そして、その結果として、
「少し運動してみよう」
「ジムに行ってみよう」
「以前やっていたトレーニングを再開してみよう」
という行動につながる可能性があります。
ただし、ここは重要な点です。
TRTを行えば必ず運動意欲が上がる、と断定することはできません。
テストステロン治療による「モチベーション」の改善については、筋肉量や性機能ほど明確なエビデンスがあるわけではありません。
一方で、低テストステロン男性に対するTRTによって、除脂肪量や筋力が改善することは、複数の臨床試験で確認されています。
つまり、TRTは「筋トレの代わり」ではありません。
むしろ、
テストステロン低下
↓
活力・身体機能の低下
↓
運動不足
↓
筋肉量低下・体脂肪増加
↓
さらに身体機能が低下
という悪循環がある男性では、適切なTRTによって治療可能な部分を改善し、そこから運動習慣を作っていくという考え方ができます。
TRTと筋トレを組み合わせると「自分の筋肉」を作りやすくなる
テストステロンの作用として特に重要なのが、筋肉への影響です。
テストステロンは筋タンパク質合成や筋肉量の維持に関係しています。
低テストステロン男性に対するTRTでは、除脂肪量の増加や筋力の改善が報告されています。
さらに、テストステロン濃度が低い状態では、十分な運動をしても筋肉を増やしにくいケースがあります。
そのため、テストステロンが明らかに低下している男性では、適切なTRTによってホルモン環境を正常化したうえで筋トレを行うことで、トレーニングによる筋量・筋力改善を得やすくなる可能性があります。
ただし、ここでも「TRTをすれば誰でも筋肉が増える」という意味ではありません。
TRTの効果は、もともとのテストステロン値、年齢、肥満、運動習慣、栄養状態などによって変わります。
そして、正常なテストステロン値の男性が、筋肉を増やす目的だけでテストステロンを使用することは、医療としてのTRTとは別の話です。
「筋トレをするとテストステロンが上がる」は少し違う
ここは誤解されやすいところです。
筋トレをすると運動直後にテストステロンが一時的に上昇することがあります。
しかし、健康な男性を対象とした11件のRCT、421人をまとめたメタ解析では、運動トレーニングによる安静時総テストステロンへの全体的な効果はほぼ認められませんでした。
したがって、
「筋トレをすればテストステロンがどんどん上がる」
とは言えません。
むしろ重要なのは、
低テストステロンの男性では必要に応じて医学的に治療する
+
筋トレによって自分の筋肉を作る
という考え方です。
筋トレを「テストステロンを上げる方法」とだけ考えるよりも、
筋肉・骨・身体機能を維持するための運動
と考えたほうが医学的には正確です。
筋トレは「健康寿命」にも関係する
さらに興味深いのが、筋力トレーニングと長期的な健康との関連です。
筋力トレーニングを行っている人では、行っていない人と比較して、全死亡、心血管疾患、がん、糖尿病などのリスクが低いという関連が複数のコホート研究で報告されています。
ただし、これらの研究の多くは観察研究です。
したがって、
「筋トレをすれば寿命が○%延びる」
と断定することはできません。
健康な人ほど運動するなど、さまざまな交絡因子があるからです。
それでも、筋力トレーニングが筋肉、身体機能、代謝、骨などに良い影響を与えることを考えると、健康寿命を考えるうえで非常に合理的な習慣であることは間違いありません。
「美容整形をするな」という話ではない
ここは誤解してほしくないところです。
美容整形には美容整形の価値があります。
例えば、
-
脂肪がどうしても落ちにくい部分を整える
-
左右差を改善する
-
加齢による変化を修正する
-
自分では作れない輪郭を作る
といった目的で美容医療を選択することは合理的です。
一方で、
「健康のために筋肉を作りたい」
という目的まで美容整形で代替することはできません。
脂肪吸引には、輪郭不整、漿液腫、血腫、感染、血栓塞栓症などの合併症があります。
また、臀部への脂肪注入では脂肪塞栓による重篤な合併症が問題となってきました。
つまり、美容目的の手術には、それぞれに一定の利益とリスクがあります。
だからこそ、
「手術を受けるほどではないけれど、身体をもっと格好よくしたい」
という人にとって、まず筋トレを選択することには大きな意味があります。
40代からの身体づくりは「美容」と「予防医学」を同時にできる
40代、50代になると、
「昔より腹が出てきた」
「肩幅がなくなった」
「お尻が垂れてきた」
「筋肉が落ちた」
という変化を感じる人が増えてきます。
このとき、
脂肪を取る
脂肪を入れる
輪郭を削る
ボリュームを足す
という方法もあります。
しかし、もう一つの方法があります。
筋肉そのものを育てることです。
スクワット。
ヒップヒンジ。
ヒップスラスト。
ローイング。
懸垂。
プレス。
そして適切な有酸素運動。
こうした運動を継続することで、数か月後には身体の見た目が変わり、さらに数年後には「身体を動かす能力」そのものが変わります。
そして10年、20年後には、その差がもっと大きくなる可能性があります。
「今の見た目」だけでなく「20年後の身体」を買う
美容整形の大きな特徴は、短期間で外見を変えられることです。
筋トレはその逆です。
時間がかかります。
面倒です。
筋肉痛にもなります。
思ったように大きくならないこともあります。
しかし、その過程で得られるものは外見だけではありません。
筋力、筋肉量、身体機能、骨への刺激、運動能力、体脂肪のコントロール、そして健康的な生活習慣。
これらはすべて、自分自身の身体に残ります。
そして、テストステロンが低下している男性では、必要に応じて医学的な治療を行うことで、活力や筋肉量などの改善が得られ、運動習慣を再構築するきっかけになる可能性もあります。
だからこそ、40代以降の身体づくりを考えるなら、
「どうすれば筋肉があるように見えるか?」
だけではなく、
「どうすれば20年後も自分の筋肉で動けるか?」
という視点を持ってほしいと思います。
当院からのメッセージ
美容医療には、美容医療にしかできないことがあります。
しかし、筋肉を作るという目的に関しては、まず筋力トレーニングを考えることをおすすめします。
筋トレで得られるのは、単なる「見た目」ではありません。
筋肉を増やす。
筋力を高める。
骨に荷重をかける。
身体機能を維持する。
サルコペニアを予防する。
そして、長期的には健康寿命を支える身体の土台になります。
さらに、テストステロンが低下している男性では、意欲や活力の低下によって運動習慣そのものが失われていることがあります。
そのような場合には、テストステロン低下の原因を調べ、適応があればTRTによってホルモン環境を改善することも選択肢になります。
TRTは筋トレの代わりではありません。
むしろ、
適切なTRTで治療可能なテストステロン低下を改善する
↓
運動する活力を取り戻す
↓
筋トレを継続する
↓
自分自身の筋肉・筋力・骨を作る
という組み合わせに意味があります。
美容のために筋肉を作るのなら、健康のためにも筋肉を作る。
「筋肉があるように見える身体」ではなく、「本当に筋肉があり、強く、動ける身体」を作る。
40代以降の身体づくりでは、その違いを意識してみてはいかがでしょうか。
参考文献
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→ 16件の前向きコホート研究をまとめ、筋力トレーニングと全死亡、心血管疾患、がん、糖尿病などとの関連を評価。筋力強化活動は主要アウトカムのリスク10~17%低下と関連。なお観察研究なので因果関係には注意が必要。
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PubMed:Treatment of Men for “Low Testosterone”