コルチゾールは測るべき?|テストステロンとの関係と「スポット測定」をおすすめしない理由
テストステロンとコルチゾールは「バランス」が重要と言われています
近年、スポーツ科学や行動科学では、
Dual Hormone Hypothesis(デュアルホルモン仮説)
という考え方が注目されています。
これは簡単に言えば、
テストステロンだけでは人の行動は決まらず、ストレスホルモンであるコルチゾールとのバランスが重要である
という考え方です。
そのため、
「テストステロンを測るならコルチゾールも測った方が良いのでは?」
というご質問をいただくことがあります。
しかし実は、一般的な外来でコルチゾールを1回だけ採血しても、ほとんど臨床的な意味はありません。
なのでいつもお断りしています。
今回はその理由を解説します。テストステロン低下による症状が気になる方は▶ 男性更年期障害(LOH症候群)の症状・検査・治療もご確認ください。
Dual Hormone Hypothesisとは?
テストステロンは、
-
意欲
-
挑戦する気持ち
-
行動力
-
競争心
などに関わるホルモンです。
一方、コルチゾールは副腎から分泌されるホルモンで、
-
ストレスへの対応
-
血糖維持
-
血圧維持
-
炎症の調節
など生きていくために欠かせない役割を担っています。
Dual Hormone Hypothesisでは、テストステロンが十分あっても、慢性的にコルチゾールが高い状態では、本来の積極性やリーダーシップが発揮されにくいと考えられています。
例えば、仕事やスポーツなどで高いパフォーマンスを発揮する人では、テストステロンだけでなくストレスを適切にコントロールできていることも重要なのです。テストステロンと仕事の関係についてはテストステロンが高いと仕事で成功する?で解説しています。
ただし、これは心理学や行動科学の研究から生まれた仮説であり、医療現場で「コルチゾールを測って仕事の能力を評価する」といった使い方が確立されているわけではありません。
コルチゾールは1日の中で大きく変動します
コルチゾールは、テストステロン以上に
日内変動(サーカディアンリズム)
が大きいホルモンです。
一般的には、
-
朝6〜8時頃が最も高い
-
日中に徐々に低下
-
夜には最も低くなる
というリズムを示します。
さらに、採血の直前にも
-
緊張
-
運動
-
睡眠不足
-
痛み
-
カフェイン
などによって簡単に変化します。
午後3時に採血した値と、朝8時に採血した値を比較しても、異常なのか正常なのか判断することはできません。
コルチゾールはACTHと同時に測るのが基本です
内分泌内科では、コルチゾールを評価する場合、通常は
早朝(7〜9時頃)にACTH(副腎皮質刺激ホルモン)と同時に採血
します。
ACTHは、脳の下垂体から分泌され、副腎へ「コルチゾールを作りなさい」という指令を出しているホルモンです。
LH,FSHとテストステロン、TSHとFT3,FT4の関係と似ています。
つまりコルチゾールだけでは
-
副腎が悪いのか
-
下垂体が悪いのか
-
生理的な変動なのか
区別できません。
そのため、ACTHとセットで評価することが基本になっています。
本当に病気が疑われる場合は「負荷試験」を行います
例えば、
-
副腎不全(アジソン病)
-
クッシング症候群
-
下垂体疾患
などを疑う場合には、1回採血するだけでは診断できません。
必要に応じて、
-
ACTH負荷試験
-
デキサメタゾン抑制試験
-
CRH負荷試験
-
深夜唾液コルチゾール
-
24時間尿中遊離コルチゾール
などを組み合わせて診断します。
つまり、スポット採血だけで副腎機能を評価することはできないのです。
「副腎疲労症候群」の考え方には注意が必要です
海外では、
「副腎疲労症候群(Adrenal Fatigue)」
という言葉を耳にすることがあります。
疲れやストレスは副腎が疲れているからだとして、スポット採血でコルチゾールを測定し、場合によってはコルチゾール製剤を処方するケースもあります。
しかし、現在、副腎疲労症候群は主要な内分泌学会では疾患として認められていません。
また、スポットのコルチゾール値だけで副腎疲労を診断できるという科学的根拠もありません。
必要のないステロイド薬を服用すると、逆に
-
副腎機能低下
-
糖尿病
-
骨粗しょう症
-
感染症
などを引き起こす可能性があります。
テストステロン外来でコルチゾールを測るべき?
男性更年期障害(LOH症候群)の診療では、まず評価すべきなのは
-
遊離テストステロン
-
LH
-
FSH
-
必要に応じてプロラクチン
-
甲状腺機能
-
血算
-
フェリチン
-
ビタミンD
-
亜鉛
などです。実際の検査項目は男性更年期の検査についてでご確認いただけます。
一方、副腎疾患を疑う症状や所見がない方に対して、コルチゾールをスポットで測定することは一般的には推奨されません。
Dual Hormone Hypothesisは非常に興味深い研究ですが、
現時点では
「仕事のパフォーマンスを評価するためにコルチゾールを測る」
という段階には至っていません。
ストレス対策はコルチゾール測定より生活習慣改善が重要です
慢性的なストレスは、テストステロン低下とも関連します。
しかし、その評価は採血よりも、生活習慣の見直しの方が重要です。
例えば、
-
十分な睡眠
-
定期的な運動
-
適正体重
-
アルコールを控える
-
睡眠時無呼吸症候群の治療
-
必要に応じたメンタルヘルスケア
これらは、コルチゾールを「正常化する」ことを目的にするというより、
ストレスへの適応力を高め、テストステロンが働きやすい身体をつくる方法として推奨されています。テストステロンを上昇させる生活習慣もあわせてご覧ください。
まとめ
Dual Hormone Hypothesisは、テストステロンとコルチゾールのバランスが行動やパフォーマンスに影響する可能性を示した、非常に興味深い研究です。
一方で、この仮説を根拠にコルチゾールをスポット採血で測定して仕事の能力やストレス状態を評価することは、現在の医学では推奨されていません。
コルチゾールは日内変動が非常に大きく、評価する場合は早朝にACTHと同時測定することが基本です。
さらに副腎疾患が疑われる場合には、負荷試験や複数の検査を組み合わせて診断します。
気分の落ち込みや慢性的な疲労がある場合は、コルチゾールだけに注目するのではなく、
テストステロンや甲状腺機能、貧血、栄養状態なども含めて総合的に評価することが、適切な診断と治療につながります。メンタルヘルスとテストステロン・亜鉛・ビタミンD・マグネシウムや、男性更年期の症状としての気分の落ち込み・イライラもご参照ください。
参考文献
-
Mehta PH, Josephs RA. Testosterone and cortisol jointly regulate dominance: Evidence for the Dual-Hormone Hypothesis. Horm Behav. 2010;58(5):898-906.
-
Fassnacht M, Dekkers OM, et al. European Society of Endocrinology Clinical Practice Guideline on the diagnosis and treatment of endogenous Cushing’s syndrome. Eur J Endocrinol. 2021.
-
Nieman LK, et al. The Diagnosis of Cushing’s Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2008.
-
Bornstein SR, et al. Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2016.
-
Cadegiani FA, Kater CE. Adrenal fatigue does not exist: a systematic review. BMC Endocr Disord. 2016.
-
日本内分泌学会. 副腎不全(副腎クリーゼを含む)診療ガイドライン.