大手町の内科・男性更年期障害(テストステロン治療)専門クリニック
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糖尿病とテストステロン

テストステロンが低い男性は糖尿病も悪化しやすい?TRTで血糖値や脂肪は改善するのか

「テストステロンが低いと太りやすくなる」「筋肉が落ちて運動しなくなる」「糖尿病にも悪いのでは?」

男性更年期やLOH(加齢男性性腺機能低下症候群)について診療していると、このような疑問を持つ方は少なくありません。

実際、2型糖尿病の男性ではテストステロンが低いことが多く、低テストステロンと肥満・インスリン抵抗性・糖代謝異常には関連があります。

では、テストステロンが医学的に低下している男性にテストステロン補充療法(TRT)を行うと、血糖コントロールまで良くなるのでしょうか。

結論から言うと、

低テストステロンの2型糖尿病男性では、TRTによってインスリン抵抗性やHbA1c、体脂肪などが改善する可能性を示す研究があります。

ただし、

「TRTをすれば糖尿病が良くなる」とまでは言えません。

近年の大規模なランダム化比較試験では、TRTによる血糖改善が確認されなかったためです。

この違いを理解することが重要です。

テストステロンと糖尿病にはどのような関係がある?

テストステロンと糖代謝には複数の経路が関係しています。

テストステロンが低下すると、

  • 筋肉量が減少する

  • 体脂肪、とくに腹部脂肪が増えやすくなる

  • 身体活動量が低下する

  • インスリン抵抗性が悪化する

といった変化が起こり得ます。

筋肉は血糖を取り込む重要な組織です。

そのため、筋肉量が減り、内臓脂肪が増え、身体活動量も低下すると、血糖を処理する能力が低下しやすくなります。

つまり、

テストステロン低下
↓
筋肉量低下・脂肪増加・活動量低下
↓
インスリン抵抗性
↓
血糖コントロール悪化

という経路は、生理学的には十分考えられます。

ただし、「テストステロンが低いことだけが糖尿病を引き起こす」という単純な関係ではありません。

肥満、加齢、睡眠不足、運動不足、内臓脂肪、糖尿病そのものなどがテストステロン低下にも影響するため、両者には双方向の関係があります。

糖尿病そのものの診断・治療については、大手町の内科における糖尿病診療もあわせてご覧ください。

TRTで血糖値は改善するのか?

ここは研究結果が少し複雑です。

2014年のメタ解析では、2型糖尿病かつ低テストステロンの男性を対象とした5件のRCT、351人を解析したところ、TRTによって、

  • 空腹時血糖

  • 空腹時インスリン

  • HbA1c

  • 中性脂肪

などが改善しました。

特にHbA1cは、TRT群で約0.87ポイント低下しました。

ただし、このメタ解析は対象者が351人と比較的小規模で、追跡期間も平均6.5か月でした。

そのため、著者らもより大規模で長期間の研究が必要と結論づけています。

その後にも複数のメタ解析が発表され、TRTによってHbA1cやインスリン抵抗性が改善する可能性が報告されています。

2018年のメタ解析では、低テストステロンを伴う2型糖尿病男性596人を含む8件のRCTを解析し、TRTによって、

  • HOMA-IR

  • 空腹時血糖

  • 空腹時インスリン

  • HbA1c

が改善したと報告されています。

また、2020年の18件のRCT、1415人を対象としたメタ解析でも、TRTによってHbA1cとHOMA-IRが改善しました。

このため、

「低テストステロンの糖尿病男性では、TRTが糖代謝にプラスになる可能性がある」

という仮説には、それなりの根拠があります。

しかし、大規模なTRAVERSE試験では血糖改善が確認されなかった

ここが非常に重要です。

2024年に、より大規模で質の高いデータが発表されました。

TRAVERSE試験では、45~80歳の低テストステロン男性5204人が対象となり、そのうち1175人が前糖尿病、3880人が糖尿病でした。

この集団を解析したところ、

TRTは前糖尿病から糖尿病への進展を有意に抑制しませんでした。

また、すでに糖尿病を持っている男性についても、

TRTによってHbA1cや血糖コントロールが改善することは確認されませんでした。

これは非常に重要な結果です。

過去の小規模な研究やメタ解析では「血糖改善」が示されていた一方、より大規模なランダム化比較試験では明確な効果が確認されなかったからです。

したがって現在の医学的な表現としては、

「TRTには糖代謝を改善する可能性を示す研究がある」

までは言えますが、

「TRTによって糖尿病が改善する」

と断定することはできません。

では、脂肪は落ちやすくなるのか?

こちらについては、血糖よりも比較的ポジティブなデータがあります。

テストステロン補充療法では、単純に体重が大きく減るというより、

体組成が変化する

ことが特徴です。

つまり、

脂肪量 ↓
除脂肪量 ↑

という方向です。

特に肥満と低テストステロンを持つ男性では、この傾向が注目されています。

2016年に発表されたランダム化比較試験では、肥満かつ低テストステロンの男性100人を対象として、低カロリー食とテストステロン治療を組み合わせました。

56週間後、TRT群ではプラセボ群と比較して、

  • 脂肪量:約2.9kg多く減少

  • 内臓脂肪面積も減少

  • 除脂肪量の減少が抑えられた

という結果でした。

つまり、体重計の数字だけを見ると大きな違いがなくても、

「脂肪を減らしながら筋肉を維持する」

方向に身体組成が変わる可能性があります。

これは糖尿病の男性にとって重要なポイントです。

内臓脂肪の増加はインスリン抵抗性と深く関係しているからです。

テストステロンで「代謝が良くなる」と言ってよい?

ここは少し注意が必要です。

「テストステロンを投与すると代謝が上がって、何もしなくても痩せる」という説明は正確ではありません。

TRTによる体重減少は一貫して大きいわけではありません。

むしろ、

筋肉量が増える
+
脂肪量が減る
+
腹囲が減る

という「体組成の改善」と考えるほうが適切です。

実際、肥満男性を対象としたTRTの系統的レビュー・メタ解析では、TRTによって除脂肪量は平均約2kg増加した一方、HbA1cについては効果が明確ではありませんでした。

したがって、

「テストステロンを補充すると代謝が良くなって痩せる」

よりも、

「低テストステロン男性では、TRTによって筋肉量を増やし、脂肪量や腹囲を改善できる可能性がある」

と説明するほうが医学的には正確です。

「元気になって運動するようになる」という効果は?

これは非常に興味深いところです。

低テストステロンの男性では、

  • 性欲低下

  • 活力低下

  • 疲れやすさ

  • 筋力低下

  • 身体活動への意欲低下

などが問題になることがあります。

TRTによってこうした症状の一部が改善すれば、

「運動するための土台」が戻る

可能性があります。

ただし、ここは現在の研究から直接、

「TRTをすると運動量が増えて、その結果として血糖が改善する」

と証明されたわけではありません。

したがって、

低テストステロン
↓
活力・身体機能の低下
↓
運動不足
↓
筋肉量低下・体脂肪増加
↓
インスリン抵抗性

という悪循環を、TRTによって一部改善できる可能性がある、と考えるのが妥当です。

TRTそのものを「運動の代わり」にするものではありません。

テストステロンと筋トレを組み合わせる意味

ここが男性更年期診療では重要です。

テストステロンが低下している男性に対して、

「運動してください」

とだけ言っても、本人に十分な活力や筋力がなければ、なかなか実行できないことがあります。

そこで、医学的にテストステロン低下が確認され、症状も伴っている男性では、

テストステロンを適正な範囲に戻す
↓
活力・身体機能を改善する
↓
運動を再開する
↓
筋肉量を増やす
↓
身体活動量を上げる
↓
体脂肪・インスリン抵抗性を改善する

という流れを作ることには合理性があります。

ただし、これは「TRTと運動を組み合わせれば糖尿病が治る」という意味ではありません。

糖尿病の治療では、食事療法、運動療法、体重管理、必要に応じた薬物療法が基本です。

TRTは、あくまでテストステロン欠乏が確認された男性に対する治療です。

2026年の最新レビューから見た現在の答え

2026年に発表された最新のsystematic reviewでは、肥満、機能性低テストステロン血症、2型糖尿病またはメタボリックシンドロームを持つ男性を対象とした二重盲検プラセボ対照試験を検討しています。

8試験の結果、

  • 脂肪量減少 → 比較的一貫した傾向

  • 除脂肪量増加 → 比較的一貫した傾向

  • HOMA-IR改善 → 一部で良好な結果

  • HbA1c改善 → エビデンスは非常に不確実

  • 空腹時血糖改善 → エビデンスは非常に不確実

という結果でした。

つまり、

「体組成を改善する」という方向は比較的支持される一方、「血糖値を下げる治療」としてのTRTの効果はまだ確立していない

というのが、2026年時点で最も妥当な結論です。

糖尿病の男性がテストステロン治療を受ける意味

糖尿病があるからテストステロン治療をする、という考え方は適切ではありません。

一方で、

糖尿病+肥満+腹囲増加+筋力低下+性欲低下+活力低下+低テストステロン

という男性であれば、単なる「糖尿病患者」ではなく、

テストステロン低下を伴った代謝・身体機能の悪循環

という視点から診察する価値があります。

もし血液検査でテストステロン低下が確認され、症状も一致しているのであれば、LOHに対する適切な治療によって、

  • 性機能

  • 活力

  • 筋肉量

  • 体組成

  • 身体活動

などが改善し、その結果として代謝面にも良い影響が及ぶ可能性があります。

ただし、血糖値そのものについては、現時点では「TRTを糖尿病治療として使う」と言えるほどのエビデンスはありません。

「糖尿病だからテストステロンが低い」のか、「テストステロンが低いから糖尿病になる」のか?

実際には、どちらも関係しています。

肥満やインスリン抵抗性はテストステロン低下につながります。

一方、テストステロン低下も、

  • 筋肉量低下

  • 脂肪量増加

  • 身体活動低下

などを介して、代謝状態を悪化させる可能性があります。

そのため、

糖尿病と低テストステロンは、一方向ではなく相互に影響し合う関係

と考えるほうが実態に近いでしょう。

当院からのメッセージ

テストステロンは「男らしさ」だけに関係するホルモンではありません。

筋肉、脂肪、性機能、活力など、男性の身体機能全体に関係しています。

特に、

糖尿病がある
+
お腹周りの脂肪が増えてきた
+
筋力が落ちた
+
疲れやすい
+
性欲が低下した
+
以前より運動する気力がない

という状態では、テストステロン低下が隠れていないかを確認することには意味があります。

ただし、テストステロン補充療法は糖尿病治療薬ではありません。

低テストステロンが確認された男性に対して、LOHを適切に治療し、そのうえで運動・食事・体重管理を組み合わせる。

これが、現在のエビデンスから考えられる最も合理的なアプローチです。

「血糖値を下げるためにテストステロンを投与する」のではなく、

テストステロン低下によって失われた身体機能を取り戻し、運動できる身体を作り、その結果として代謝状態の改善も目指す。

男性更年期・LOH症候群の症状や治療については男性更年期・LOH症候群の診療について、テストステロンに関する情報全般はテストステロン総合ガイドもご覧ください。

この考え方が重要です。

 

参考文献

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    → TRTと体脂肪、除脂肪量、空腹時血糖、インスリン抵抗性などを検討した59 RCTのメタ解析。

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    PubMed:Effects of testosterone supplement treatment in hypogonadal adult males with T2DM
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    PubMed:Treatment with Testosterone Therapy in Type 2 Diabetic Hypogonadal Adult Males
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    → 肥満・低テストステロン男性100人。TRT群で脂肪量・内臓脂肪の減少と除脂肪量維持/回復を認めた。

    本文(BMC Medicine):Effects of testosterone treatment on body fat and lean mass
  6. Mangolim AS, et al. Effectiveness of testosterone replacement in men with obesity: a systematic review and meta-analysis. Eur J Endocrinol. 2021;186(1):123-135. PMID: 34738915.

    → 16 RCT。TRTで除脂肪量は約2 kg増加したが、HbA1cなどの代謝アウトカムについては不確実性が残る。

    PubMed:Effectiveness of testosterone replacement in men with obesity
  7. Bhasin S, et al. Effect of Testosterone on Progression From Prediabetes to Diabetes in Men With Hypogonadism: A Substudy of the TRAVERSE Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2024. PMID: 38315466.

    → TRAVERSEの5204人を解析。TRTは前糖尿病から糖尿病への進展を有意に抑制せず、糖尿病患者の血糖コントロールも改善しなかった。

    PubMed:Effect of Testosterone on Progression From Prediabetes to Diabetes
  8. Ntais C, et al. Metabolic Effects of Testosterone Replacement Therapy in Men with Functional Secondary Hypogonadism, Obesity and Type 2 Diabetes or Metabolic Syndrome: A Systematic Review. Medical Sciences (Basel). 2026;14(3):418. PMID: 42506387.

    → 2026年時点の最新レビュー。体脂肪・除脂肪量については比較的良好なシグナルがある一方、HbA1c・空腹時血糖についてはエビデンスの確実性が非常に低いと評価。

    PubMed:Metabolic Effects of Testosterone Replacement Therapy in Men with Functional Secondary Hypogonadism

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