筋肉には「記憶」がある?|テストステロンとマッスルメモリー、筋核(Myonuclei)の最新科学
一度鍛えた筋肉は戻りやすいと言われる理由
「学生時代にスポーツをしていた人は、何年休んでも筋肉が戻りやすい」
「昔ボディビルをやっていた人は、再開するとすぐ筋肉がつく」
このような話を聞いたことがある方は多いでしょう。
これは単なる経験則ではなく、
“マッスルメモリー(Muscle Memory)”
という現象として研究されています。
近年では、テストステロンが筋肉の大きさだけではなく、筋肉の「記憶」を司る細胞レベルの構造にも影響する可能性が明らかになってきました。
今回は、筋核(Myonuclei)や筋紡錘(Muscle spindle)を含めて解説します。加齢による筋力低下が気になる方は▶ 男性更年期障害(LOH症候群)の症状・検査・治療もご確認ください。
筋肉は1つの巨大な細胞
筋肉は一般的な細胞とは少し違います。
筋線維は、1本の細胞の中に数百〜数千個もの核を持っています。
これを筋核(Myonuclei)と呼びます。
筋核は筋肉の中で
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タンパク質合成
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修復
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ミトコンドリア産生
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筋肥大
をコントロールする司令塔です。
つまり筋核が多いほど、筋肉を作る能力も高くなります。
筋トレをすると筋核は増える
レジスタンストレーニングを行うと、筋肉の周囲に存在するサテライト細胞が活性化します。
サテライト細胞は筋線維と融合し、新しい筋核を供給します。
その結果、筋肉は
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大きくなる
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強くなる
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修復能力が高まる
ようになります。筋トレとテストステロンの関係についてはこちらをご覧ください。
筋肉が細くなっても筋核は残る
以前は、筋肉が萎縮すると筋核も減ると考えられていました。
しかし近年の動物実験では、筋肉量が減少しても、獲得した筋核は長期間残存することが示されています。
つまり、筋肉が細くなっても筋肉を作る「設計図」は残っている可能性があります。
これが、現在考えられているマッスルメモリーの最も有力なメカニズムです。
※なお、ヒトでは筋核がどの程度・どれくらいの期間維持されるかについてはまだ議論があり、長期間保持される可能性を支持する研究が多い一方で、今後さらなる検証が必要です。
テストステロンは筋核を増やす
テストステロンは、筋タンパク質合成を促進するだけではありません。
研究では、テストステロンが
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サテライト細胞活性化
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筋核増加
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mTOR活性化
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IGF-1増加
などを介して、筋肥大を促進することが示されています。
つまり、筋肉を作る「工場」を増やす作用も持っているのです。
一度増えた筋核は「財産」になる可能性
動物実験では、アナボリックステロイドやテストステロン投与で増加した筋核は、投与を中止して筋肉量が減少した後も長期間残ることが報告されています。
このため、その後トレーニングを再開すると、筋肥大が速く起こる可能性があります。
これが、ドーピングが重大な問題とされる理由の一つでもあります。
一方で、医療として適正なTRTを受けた患者さんに同じ現象がどの程度起こるかは、現時点では十分な臨床データがありません。
生理学的には興味深いものの、医学的には今後の研究課題です。競技スポーツとテストステロンの関係はスポーツパフォーマンスとテストステロンで解説しています。
筋紡錘(Muscle spindle)にもテストステロンは関係する?
筋肉には、力を出すだけではなく、動きを感じるセンサーがあります。
これが筋紡錘(Muscle spindle)です。
筋紡錘は、
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姿勢保持
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バランス
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反射
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素早い方向転換
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ケガの予防
などに重要な役割を果たしています。
近年、筋紡錘や運動神経にもアンドロゲン受容体(Androgen Receptor)が存在することが分かってきました。
動物実験では、テストステロンが
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運動ニューロン
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神経筋接合部
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神経可塑性
に影響することが示されています。
ただし、ヒトでTRTが筋紡錘機能や敏捷性を直接改善することを証明した研究はまだ十分ではありません。
現時点では、有望なメカニズムとして研究が進められている段階です。
スポーツで重要なのは筋肉だけではない
トップアスリートでは筋力そのものより、
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神経系
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バランス
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コーディネーション
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力を出すタイミング
の方が重要になる場面もあります。
そのため、筋トレだけではなく、
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ジャンプ
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ダッシュ
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アジリティトレーニング
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プライオメトリクス
などを組み合わせることが、神経系を含めたパフォーマンス向上につながります。
テストステロンは、こうした適応を支える一因である可能性がありますが、トレーニングそのものに代わるものではありません。
TRTとマッスルメモリー
男性更年期障害(LOH症候群)では、筋量や筋力が低下しやすくなります。筋力低下の症状ページもご覧ください。
TRTによって
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筋タンパク質合成
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サテライト細胞活性
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筋核維持
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トレーニング効率
が改善する可能性があります。
その結果、運動習慣を組み合わせることで、筋力や身体機能をより効率よく回復できる可能性があります。
ただしTRT単独でマッスルメモリーを作ることが証明されているわけではありません。
筋肉の「記憶」は、適切なトレーニングによって初めて形成されるものです。
まとめ
筋肉には、単なる大きさだけではなく、筋核(Myonuclei)という「記憶装置」が存在します。
筋トレによって増えた筋核は長期間維持される可能性があり、これがマッスルメモリーの有力な仕組みと考えられています。
テストステロンは、筋タンパク質合成だけでなく、サテライト細胞や筋核、さらには神経筋システムにも影響を与えることが分かってきました。
一方で、TRTによって競技力やマッスルメモリーが直接向上することを証明した臨床研究はまだ十分ではありません。
だからこそ重要なのは、適切なホルモン環境のもとで継続的にトレーニングを積み重ねることです。
筋肉は努力を忘れない──それが現在の科学が示しつつある「マッスルメモリー」の本質なのかもしれません。
参考文献
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