腸内細菌叢(腸内フローラ)はテストステロンに影響する?|肥満・健康寿命との関係をエビデンスで解説
「腸活」は男性ホルモンにも関係するのでしょうか?
近年「腸内細菌叢(腸内フローラ)」は、
- 肥満
- 糖尿病
- 免疫
- アレルギー
- メンタルヘルス
など、さまざまな病気との関係が明らかになってきました。
さらに近年では、テストステロンや男性不妊との関係も研究されています。
まだ発展途上の分野ではありますが、「腸―精巣軸(Gut-Testis Axis)」という考え方も提唱されるようになりました。
今回は腸内細菌と男性ホルモンの最新エビデンスをご紹介します。
腸内細菌叢とは?
私たちの腸内には、約1,000種類、100兆個以上の細菌が生息しています。
これらは
- ビタミン産生
- 食物繊維の発酵
- 短鎖脂肪酸(酢酸・酪酸など)の産生
- 腸のバリア機能維持
- 免疫調節
など、健康維持に重要な働きをしています。
腸内細菌のバランスが崩れる状態を
ディスバイオーシス(Dysbiosis)
と呼びます。
腸内細菌とテストステロンの関係
近年動物実験では、腸内細菌を変化させることで
- テストステロン
- 精巣機能
- 精子形成
が変化することが報告されています。
ヒトでも、腸内細菌の多様性が高い男性ほど、テストステロン値が高い傾向を示した観察研究があります。
一方で、「腸内細菌を改善すればテストステロンが上がる」と証明した臨床試験はまだ十分ではありません。
現時点では関連は有望ですが、因果関係は研究段階と言えます。
腸内細菌と肥満は密接に関係する
現在、最もエビデンスが豊富なのは肥満との関係です。
腸内細菌叢の乱れは、
- インスリン抵抗性
- 慢性炎症
- 内臓脂肪蓄積
に関与すると考えられています。
そして肥満になると脂肪組織でアロマターゼ活性が高まり、テストステロンがエストラジオール(E2)へ変換されやすくなります。
肥満と男性ホルモンの関係は肥満とテストステロンで詳しく解説しています。
つまり腸内細菌は肥満を介して間接的に男性ホルモンへ影響する可能性があります。
腸内細菌が作る「短鎖脂肪酸」
腸内細菌は食物繊維を発酵して
- 酪酸(Butyrate)
- 酢酸
- プロピオン酸
などの短鎖脂肪酸を作ります。
これらは、
- 腸の炎症抑制
- インスリン感受性改善
- GLP-1分泌促進
- 食欲調節
などに関与しています。
結果として体重管理がしやすくなり、男性ホルモンにとっても良い環境を作る可能性があります。
短鎖脂肪酸はインスリン感受性や血糖にも関わり、糖尿病の管理とも関連します。
男性不妊との関係
最近では、男性不妊患者さんでは腸内細菌叢の構成が異なるという研究も報告されています。
また、慢性炎症や酸化ストレスが精子形成へ悪影響を及ぼす可能性も考えられています。
ただし、腸内細菌を改善すると妊娠率が上がる、というところまではまだ証明されていません。
整腸剤やプロバイオティクスは効く?
「ビオフェルミンなどの整腸剤を飲めばテストステロンは上がりますか?」
という質問を受けることがあります。
結論から言えば、現時点では、そのようなエビデンスはありません。
乳酸菌やビフィズス菌、その他のプロバイオティクスは、便通改善や抗菌薬関連下痢の予防などには一定の効果があります。
一方、テストステロンや男性更年期障害に対する効果は、まだ研究段階です。
一部の動物実験では、Lactobacillus属などでテストステロン上昇が報告されていますが、ヒトで再現されたとは言えません。
プレバイオティクスの方が重要かもしれません
腸内細菌を育てるためには、善玉菌を摂るだけでなく、善玉菌のエサも重要です。
おすすめは、
- 野菜
- 海藻
- 豆類
- オートミール
- 大麦
- 果物
などに含まれる食物繊維です。
これらは腸内細菌が短鎖脂肪酸を作る材料になります。
近年では、
プロバイオティクス(菌)よりプレバイオティクス(エサ)の方が重要
という考え方も広がっています。
運動は最高の「腸活」
筋トレや有酸素運動でも、腸内細菌の多様性が改善することが知られています。
つまり運動には
- テストステロン維持
- 筋肉量増加
- 肥満改善
- 腸内細菌改善
という複数のメリットがあります。
「腸活」のためにも運動習慣は非常に重要です。
当院からのメッセージ
腸内細菌叢とテストステロンの研究は現在非常に注目されている分野です。
しかし現時点では
「整腸剤を飲めば男性ホルモンが上がる」と言えるほどのエビデンスはありません。
一方で腸内細菌を整える生活習慣は、
- 肥満予防
- 糖代謝改善
- 慢性炎症の抑制
- 健康寿命の延伸
につながる可能性があります。
そのため、おすすめしたい「腸活」は、
- 食物繊維を十分に摂る
- 発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)を日常的に取り入れる
- 筋トレと有酸素運動を続ける
- 十分な睡眠をとる
- 肥満を改善する
といった、エビデンスのある生活習慣です。
腸内細菌は今後さらに研究が進む分野ですが、現時点では「腸活そのもの」よりも、「腸に良い生活習慣」がテストステロンや健康寿命につながると考えるのが最も科学的と言えるでしょう。
発酵食品と健康の関係は大豆・納豆・味噌は長生きにつながる?、生活習慣全般はテストステロンを上げる方法もご覧ください。
参考文献
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- 日本消化器病学会 編. 腸内細菌叢と消化器疾患に関する総説(最新版).