TRT中の多血症(赤血球増加症)とは?|頻度・リスク・瀉血(しゃけつ)の考え方をエビデンスで解説
TRTで最も多い副作用の一つが「多血症」です
テストステロン補充療法(TRT)は、男性更年期障害(LOH症候群)に対して有効性が確立された治療法です。
一方で、比較的よくみられる副作用として
多血症(赤血球増加症、erythrocytosis)
があります。
「血液がドロドロになるのでは?」
「瀉血が必要と言われた」
というご相談もあります。
今回はTRT中の多血症について、現在のガイドラインとエビデンスをもとに解説します。TRT全般については▶ 男性更年期障害(LOH症候群)の症状・検査・治療もあわせてご確認ください。
多血症とは?
多血症とは、赤血球やヘモグロビン、ヘマトクリット(Ht)が過剰に増加した状態です。
TRTでは特にヘマトクリット(Ht)を指標として管理します。
一般的には
Htが54%以上
から、
治療内容の見直しが推奨されています。
なぜテストステロンで赤血球が増えるのでしょうか?
これは副作用というより、テストステロン本来の生理作用です。
テストステロンは
-
エリスロポエチン(EPO)の分泌促進
-
ヘプシジン低下による鉄利用の改善
-
骨髄での赤血球産生促進
などを介して、赤血球を増やします。
実際、低テストステロン男性の貧血がTRTで改善することは、臨床試験でも示されています。
つまり、「赤血球を作る力」が正常化した結果として、多血症が起こる方がいるということです。
どのくらいの頻度で起こる?
報告には幅がありますが、TRTを受ける男性の約5〜20%程度でヘマトクリット54%以上の多血症がみられるとされています。
頻度は製剤によって異なり、一般的には
-
長時間作用型筋肉注射
-
高用量投与
ほど起こりやすく、一方で
-
毎日投与する外用剤
-
少量頻回投与(皮下注射を含む)
では比較的少ないことが報告されています。投与経路による違いはテストステロン注射は筋肉注射と皮下注射どちらが良い?で詳しく解説しています。
リスクが高い人
多血症を起こしやすいのは、
-
高齢
-
喫煙
-
睡眠時無呼吸症候群
-
COPDなど慢性肺疾患
-
肥満
-
高地居住
-
もともとHtが高い方
です。
特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)は見逃されやすく、低酸素状態によって赤血球が増えるため、TRT開始前・開始後ともに評価が重要です。詳しくは睡眠時無呼吸症候群(SAS)とテストステロンの関係をご覧ください。
多血症になると血栓は増える?
ここは非常に重要なポイントです。
確かに、ヘマトクリットが上昇すると血液粘稠度は増加します。
そのため、静脈血栓症や脳梗塞などを心配される方もいます。
しかし、TRTによる二次性多血症で、ヘマトクリット上昇そのものが血栓症を増やすというエビデンスがありません。テストステロンと心血管系の関係はテストステロンと心血管イベントもご参照ください。
この考え方は、真性多血症(Polycythemia vera)とは異なります。
真性多血症では瀉血により血栓症リスクが低下することが証明されていますが、TRTによる多血症では同じレベルのエビデンスは存在しません。
そのため現在のガイドラインでは、予防的な管理としてヘマトクリット54%を超えないようにすることが推奨されています。
瀉血(しゃけつ)は必要?
ガイドラインでは、ヘマトクリット54%を超えた場合、必要に応じて
治療的瀉血(therapeutic phlebotomy)
が選択されます。
そもそもの原因に脱水や睡眠時無呼吸症候群、肥満がある場合にはそちらの改善が優先されます。
つまり、瀉血は第一選択ではなく、「調整しても改善しない場合」の選択肢と考えるのが現在の主流です。
瀉血はどのように行う?
標準化された世界共通のプロトコールはありませんが、多くの施設では
-
400mL程度を1回採血
-
数週間〜数か月後に再評価
-
必要なら繰り返す
という方法が一般的です。
重要なのは、瀉血だけを繰り返してTRTを続けることは推奨されていないという点です。
近年のレビューでは、瀉血を繰り返すと
-
鉄欠乏
-
酸素運搬能の低下
-
代償的な生理反応
などが起こる可能性も指摘されており、まずは基礎疾患や誘因の除去、TRTの調整をすべきと考えられています。
当院でおすすめしている考え方
TRT中は、定期的な血液検査が非常に重要です。
一般的には、
-
治療開始前
-
開始後3か月
-
その後は3カ月毎(必要に応じてより頻回)
ヘマトクリットを確認することが推奨されています。
ヘマトクリットが上昇した場合には、瀉血だけに頼るのではなく、
-
投与量は適切か
-
注射間隔は長すぎないか
-
睡眠時無呼吸症候群はないか
-
喫煙や脱水はないか
などを総合的に見直すことが重要です。投与量の考え方はTRTの至適投与量とその方法で解説しています。
皮下注射による少量頻回投与は血中濃度のピークが穏やかになり、多血症リスクを低減できる可能性がありますが、この点についてはまだ十分な比較試験はありません。
まとめ
TRT中の多血症は、最もよくみられる副作用の一つですが、適切なモニタリングによって管理可能なことがほとんどです。
ヘマトクリット54%以上では、まず投与量や投与方法を見直し、必要に応じて瀉血を検討します。
一方でTRTによる多血症に対する定期的な瀉血の有効性を直接証明した質の高い研究はまだ十分ではありません。
そのため、
「採血で早めに見つけ、原因を評価し、必要最小限の介入を行う」
というのが現在のエビデンスに最も沿った考え方です。
TRTは継続的なフォローアップと組み合わせることで、安全性を高めながら長期的なメリットを得られる治療と言えるでしょう。
参考文献
-
Bhasin S, Brito JP, Cunningham GR, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018.(PMID: 29562364)
-
Bond P, Verdegaal T, Smit DL. Testosterone therapy-induced erythrocytosis: can phlebotomy be justified? Endocr Connect. 2024.(PMID: 39212549)
-
Salonia A, Bettocchi C, Carvalho J, et al. European Association of Urology Guidelines on Male Sexual and Reproductive Health: 2025 Update. Eur Urol. 2025.(PMID: 40340108)
-
日本泌尿器科学会・日本メンズヘルス医学会. 加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群診療ガイドライン. 2022.