アナボリックステロイド・ホルモン製剤の半減期と投与間隔|薬物動態から考える合理的なスケジュール
「半減期=投与間隔」ではありません
AAS(アナボリックステロイド)やホルモン製剤について「半減期が○日だから○日ごとに打てばよい」という情報を見かけます。しかし実際の投与間隔は、半減期・血中濃度の変動(Peak & Trough)・副作用・治療目的(TRTか競技目的か)・利便性を総合して決めます。
半減期が長い薬剤でも、血中濃度を安定させる目的で少量を高頻度に投与することがあります。逆に半減期が短い薬剤は頻回投与が必要になります。
半減期一覧(代表的な製剤)
| 薬剤 | おおよその半減期 | 投与間隔の目安(薬物動態上) |
|---|---|---|
| テストステロン プロピオン酸(P) | 約2〜4.5日 | 2〜3日に1回 |
| テストステロン エナント酸(E) | 約7〜10日 | 週1〜2回 |
| テストステロン シピオン酸 | 約8日 | 週1〜2回 |
| テストステロン ウンデカン酸 | 約20〜34日(製剤差あり) | 10〜14週毎(製剤準拠) |
| トレンボロン アセテート | 約2〜3日 | 隔日〜週3回程度 |
| トレンボロン エナント酸 | 約7〜11日 | 週1〜2回 |
| ナンドロロン デカノエート(デカ) | 約6〜15日 | 週1回程度 |
| ボルデノン ウンデシレネート | 約14日 | 週1回程度 |
| マステロン プロピオン酸(ドロスタノロンP) | 約2〜4日 | 隔日〜週3回程度 |
| マステロン エナント酸(ドロスタノロンE) | 約7〜10日 | 週1〜2回 |
| プリモボラン エナント酸 | 約10日前後 | 週1回程度 |
| 成長ホルモン(GH) | 血中20〜30分(作用は約12〜24時間) | 毎日 |
| hCG | 約24〜36時間 | 週2〜3回 |
| hMG | 約30〜40時間 | 週2〜3回 |
| クロミフェン | 約5〜7日(活性代謝物はさらに長い) | 毎日〜隔日 |
| EPO(エポエチンα) | 約4〜13時間(投与経路で異なる) | 週1〜3回(適応による) |
※半減期は製剤や投与経路によって幅があります。
図でみる「血中濃度の安定」
近年のTRTでは、少量・高頻度投与でより生理的な血中濃度を再現する考え方が広まっています。皮下注射もこの考え方と相性がよく、自己注射を行う国では一般的になりつつあります。目標とする検査値の目安は男性ホルモン・TRT関連検査の基準値一覧をご覧ください。
薬剤別の半減期と投与間隔
代表的な薬剤ごとに、薬物動態と一般的な臨床での使われ方をまとめます。
テストステロン E(エナント酸)
- 半減期:約7〜10日
- 投与間隔の目安:週1〜2回
- 現在、世界で最も使われるTRT製剤の一つ。投与直後にピーク、後半で低下するため、海外では週2回に分割してPeak/Troughを小さくする方法が一般的。皮下注射だと変動がさらに小さくなる可能性が報告されています。日本の保険診療では125 mgを2週ごとの筋注が標準(自費ではより細かい間隔が可能)。
テストステロン P(プロピオン酸)
- 半減期:約2〜4.5日
- 投与間隔の目安:2〜3日に1回
- 最も短時間型。血中濃度が急速に上がり数日で低下するため、安定させるには隔日程度の投与が理論上望ましい。現在のTRTではあまり使われません。
トレンボロン
- 半減期:アセテート 約2〜3日/エナント酸 約7〜11日
- 投与間隔の目安:隔日〜週3回/週1〜2回
- アセテートは立ち上がりが速く頻回投与が必要。不眠・発汗・高血圧・精神症状・高プロラクチン血症など副作用が強く、医療用としてヒトへの適応はありません。
デカ(ナンドロロン デカノエート)
ボルデノン
- 半減期:約14日
- 投与間隔の目安:週1回程度
- 非常に長い半減期。赤血球増加作用が強く多血症のリスクが比較的高い。WADAでも長期間検出される薬剤の一つ。
マステロン(ドロスタノロン)
- 半減期:P 約2〜4日/E 約7〜10日
- 投与間隔の目安:隔日〜週3回/週1〜2回
- DHT誘導体でアロマ化せず水分貯留が少ない。AGA・前立腺への影響に注意。詳細は各種AASの特徴。
成長ホルモン(GH)
- 半減期:血中20〜30分(作用は約1日)
- 投与間隔の目安:1日1回(週1回製剤も)
- 血中では速やかに消失するがIGF-1を介した作用は約1日持続。筋肥大目的で高用量を使っても筋力向上効果は限定的で、浮腫・耐糖能異常が問題に。詳しくはボディビルと成長ホルモン(hGH)。
hCG・hMG
- 半減期:hCG 約24〜36時間/hMG 約30〜40時間
- 投与間隔の目安:週2〜3回
- 妊孕性維持や下垂体性性腺機能低下症で使用。hCGはLH様作用、hMGはFSH作用も。TRTで精巣萎縮・妊孕性低下が懸念される場合の併用にも。→ PCTについて
クロミフェン
- 半減期:約5〜7日(活性代謝物はさらに長い)
- 投与間隔の目安:毎日〜隔日
- 半減期が長く、毎日〜隔日でも効果が維持される。LH・FSHを促し自己のテストステロン産生を高めるため、若年者や妊孕性を維持したい男性でTRTの代替に。→ PCT
EPO
- 半減期:約4〜13時間(投与経路で異なる)
- 投与間隔の目安:週1〜3回
- 赤血球を増やし持久力を高めるためスポーツ界では代表的なドーピング薬物(ドーピングの歴史)。不適切な使用で血液粘度上昇・脳梗塞・心筋梗塞など重篤な副作用。
半減期より重要なのは「血中濃度の安定」
半減期だけを見ると「長時間型なら月1回で十分」と思われがちですが、テストステロンでは投与直後にピークが高くなり、後半で不足することがあります。特にTRTでは「正常範囲内のテストステロンを長時間維持すること」が目標で、極端なピークや谷を避けることが症状改善や副作用軽減につながる可能性があります。
まとめ|当院からのメッセージ
薬物の半減期は投与間隔を考えるうえで重要な指標ですが、半減期だけで適切なスケジュールが決まるわけではありません。一方で、AASやEPOなどを競技力向上目的で使用することは、健康被害だけでなくWADAや各競技団体のアンチ・ドーピング規則にも違反します(ドーピングの歴史)。使い分けや副作用対策の考え方はアナボリックステロイドの使い分けや副作用対策にまとめています。
スポーツ・体づくりの目的でAASを調べている方は、サイクル・ケア剤・回復(PCT)・法的リスクの全体像をパフォーマンス向上目的のテストステロン|スポーツ目的の情報の起点にまとめています。男性ホルモンや妊孕性について不安がある方は、自己判断ではなく、採血結果や症状に合わせた適切な治療方針を医師と相談することをおすすめします。当院の治療の選択肢は男性更年期の治療一覧をご覧ください。
テストステロン全般についてはテストステロン総合ガイドで、基準値・原因・維持する方法・TRT・保険・PCTまでまとめて解説しています。
参考文献
- Bhasin S, et al. Testosterone Therapy for Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018.(PMID: 29562364)
- Handelsman DJ. Androgen Physiology, Pharmacology, Use and Misuse. In: Endotext. South Dartmouth (MA): MDText.com, Inc.; 2000-. Updated October 5, 2020.(PMID: 25905231)
- Kanayama G, Hudson JI, Pope HG. Anabolic-androgenic steroid use and body image in men: a review. review.
- Rhoden EL, Morgentaler A. Risks of testosterone-replacement therapy and recommendations for monitoring. N Engl J Med. 2004.
- Liu PY, et al. Induction of spermatogenesis and fertility during gonadotropin treatment of gonadotropin-deficient infertile men. meta-analysis.
- World Anti-Doping Agency (WADA). 2026 Prohibited List.(公的資料)
- 日本泌尿器科学会・日本メンズヘルス医学会. LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き. 2022.