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各種AASの特徴について

ボディビル界で言われる「薬ごとに効き方や副作用の傾向が違う」は、かなりの部分で薬理学的に説明できます。
ただし、「筋肥大の強さランキング」「乾く/丸くなる/性欲が落ちる理由」「プロラクチンが原因だからこれを足せばよい」といった実戦解釈は、かなり経験則・ブロ科学が混ざります。

まず大枠だけ先に整理すると:

薬理学でかなり説明できるもの

  1. 芳香化するか(E2由来の水分・乳房症状に関係)
  2. 5α還元やDHT関連の代謝(皮膚・毛髪・前立腺・局所作用に関係)
  3. プロゲスチン作用の有無(特にナンドロロン系)
  4. 17α-アルキル化の有無(経口肝毒性の重要因子)
  5. 半減期・エステル・血中変動
  6. AR活性+組織ごとの代謝差

薬理学だけでは言い切れないもの

  1. どれが一番バルクが乗るか
  2. どれが一番見た目が乾くか
  3. トレンは必ずプロラクチン問題を起こす
  4. プリモ/マスターは副作用が軽いから安全
  5. AとBをスタックすると相乗効果が明確に出る
  6. ネットにあるanabolic/androgenic ratioをそのまま人間に当てはめること

つまり、“薬ごとに性格はある”は本当、でも“その性格の説明”はしばしば雑、が正確です。

以下で細かく考察します。


1. まず前提:ボディビル界の「種類ごとの違い」は、何が実際の差を作っているのか

AASの差は、ざっくり以下の6軸で見ると整理しやすいです。

1:アロマ化
テストステロン→エストラジオールなどに変わるか
→ 水分、乳房症状、血圧、気分、性機能に関与

2:5α還元/DHT関連代謝
テストステロンはDHT化で一部組織作用が増幅
ナンドロロンは逆にDHN化で局所アンドロゲン作用が弱まる方向
→ 脱毛、皮脂、前立腺、局所の“アンドロゲン感”に関係

3:プロゲステロン受容体(PR)作用
特にナンドロロン系で重要
→ HPT軸抑制、乳房症状の解釈、性機能関連の話が複雑になる

4:17α-アルキル化の有無
経口化のための構造修飾
→ 肝機能・脂質悪化リスクの大きな要因

5:血中動態(半減期、エステル、経口/注射)
同じ“薬の種類”でも、エナント酸/シピオン酸/デカン酸などで血中変動が変わる

6:AR作動薬としての強さ+非AR的作用
ただし“AR親和性が高い=筋肥大が必ず強い”とは限らない
組織選択性、代謝、投与量、非ゲノム作用、血中濃度推移も絡む


2. 主要AASの比較表(ビルダー界の定説を医学寄りに解釈)

以下は、ボディビル界でよく使われる見方を、できるだけ薬理学に寄せて整理したものです。
対象はまず、話題に出やすい6つに絞ります。

  1. テストステロン
  2. ボルデノン(EQ)
  3. ナンドロロン(Deca/NPP)
  4. トレンボロン
  5. メテノロン(プリモ)
  6. ドロスタノロン(マスタロン)

A. 6剤の比較表(まず全体像)

ビルダー界での一般イメージ 薬理学で比較的説明できる部分 薬理学だけでは言い切れない/怪しい部分
テストステロン ベース。筋量・体重は乗りやすいが、水も乗りやすい 芳香化してE2上昇しうる。5α還元でDHT化。水分・乳房症状・皮脂・脱毛などの説明がつきやすい 「どの量でもベースに必須」「必ず性機能維持に必要」などの断定
ボルデノン ゆっくり伸びる、見た目が比較的クリーン、食欲・赤血球が上がりやすいと言われる テストステロン類縁体だが代謝特性は同一でない。非経口で肝毒性は主因ではない。赤血球増加はAAS全般で起こりうる 「食欲増進はEQ特有」「血管が出る」「E2が低いから安全」などの断定
ナンドロロン 関節に優しい、筋量は乗る、性機能面で“デカディック”が怖い 芳香化は弱い。5α還元でDHNとなり一部組織ではアンドロゲン作用が弱まりうる。PR作用あり。HPT軸抑制が重くなりやすい説明がつく 「関節を治す」「プロラクチンだけが性機能低下の原因」「必ずデカディックになる」
トレンボロン すごく効く、乾く、強い、でも副作用が重い 非芳香化。強いAR作動性。睡眠/交感神経/気分・発汗・心血管負荷が出やすい可能性は説明しやすい 「プロラクチン由来」「脂肪燃焼が特別」「どの副作用もトレン特有メカニズムで説明できる」
メテノロン(プリモ) マイルド、乾く、女性化乳房少ない、カット向き DHT系で非芳香化。比較的“E2系副作用が少ない”説明はつく 「安全」「副作用が軽いから長期でも問題少ない」「脂質/心血管に優しい」
ドロスタノロン(マステロン) 硬くなる、乾く、抗エストロゲンっぽい、見た目向上向き DHT系で非芳香化。E2そのものを上げる薬ではない。皮膚・毛髪系副作用の説明はつきやすい 「AI代わりになる」「体脂肪が低いと効きが変わる」「見た目改善は薬理で一意に説明できる」

3. 各薬剤について

3-1. テストステロン

ボディビル界での一般イメージ

「基本のベース」

「一番自然で、まずこれ」

「量を増やすとサイズも体重も伸びやすい」

「でも水が乗る、乳首が怪しくなる、顔がむくむ、皮脂・脱毛も出やすい」

薬理学的に説明できる部分

1) 芳香化する

テストステロンはアロマターゼによりエストラジオール(E2)へ変換されます。
これにより、水分貯留、乳房症状、血圧変動、気分/性欲への影響が起こりうる、という説明はかなり筋が通っています。

2) 5α還元でDHTになる

皮膚・毛髪・前立腺などでは、5α還元によりDHTが増え、局所アンドロゲン作用が強くなりえます。
そのため、皮脂、脱毛傾向、前立腺刺激、体毛などの“アンドロゲンっぽい副作用”は説明しやすいです。

薬理学だけでは言い切れない部分

「テストは絶対ベースに必要」

「テストを抜くと必ず性機能が死ぬ」

「高用量テストが最も筋肥大効率がよい」

この辺は、一部はもっともらしいが、乱用量・スタック環境での比較データが弱いです。


3-2. ボルデノン(EQ)

ボディビル界での一般イメージ

「テストよりクリーン」

「食欲が出る」

「ゆっくり伸びる」

「赤血球が上がりやすい」

「水は少なめ」

薬理学的に説明できる部分

1) テストステロン類縁だが、同じではない

ボルデノンは1,2位に二重結合を持つテストステロン類縁体で、構造修飾により代謝特性が変わります。

2) 多血/ヘマトクリット上昇はありうる

AAS全般に赤血球増加はありますが、ボディビル界でEQが“ヘマトが上がりやすい”とされるのは、完全な妄想ではありません。
ただし、「EQだけ特別危険」とまで言えるほど比較データは強くないです。

薬理学で説明しにくい部分

「EQは食欲が増える」
これは有名な経験則ですが、ヒトで強い医学的裏付けは乏しいです。

「EQは見た目が綺麗に仕上がる」
水分、体脂肪、食事、他薬、塩分、血中E2などが混ざるので、薬単独の効果と切り分けにくいです。


3-3. ナンドロロン(Deca / NPP)

ボディビル界での一般イメージ

「筋量が乗りやすい」

「関節が楽になる」

「性機能が死にやすい(デカディック)」

「プロラクチンが怖い」

「水はテストほどではないが、クリーンでもない」

薬理学的に説明できる部分

1) 芳香化は弱い

ナンドロロンはヒトではアロマターゼの基質として弱く、テストステロンほどのE2上昇を起こしにくいと考えられます。

2) 5α還元でDHNになる

テストステロンは5α還元でより強いDHTになりますが、ナンドロロンはDHN(dihydronandrolone)になり、これは親化合物よりAR作用が弱いとされます。
そのため、5α還元が盛んな組織では、テストと違って“局所アンドロゲン感”が落ちる方向の説明が可能です。

3) PR作用がある

ナンドロロンはPR(プロゲステロン受容体)作用を持つため、
HPT軸抑制や乳房症状の解釈、性機能関連の話がやや複雑になります。

薬理学だけでは言い切れない部分

1) 「関節に良い」

これはかなり有名な体感談ですが、
“関節そのものを治している”のか、
“水分・痛みの感じ方・炎症感覚・トレーニング負荷の変化”なのかは切り分けが難しいです。
症状軽減の体感はありうるが、関節保護薬のように理解するのは危険です。

2) 「デカディック=プロラクチンが原因」

性機能低下は、

  • HPT軸抑制
  • E2バランス
  • PR作用
  • 心理面
  • 他薬との併用

が絡むので、“プロラクチンだけが原因”とは言えません。


3-4. トレンボロン

ボディビル界での一般イメージ

「一番効く」

「乾く、硬くなる、体脂肪が落ちる」

「でも睡眠、汗、気分、心肺、血圧、性格がやられる」

「プロラクチン問題がある」

薬理学的に説明できる部分

1) 非芳香化

トレンボロンは芳香化しないため、
テストステロンのようなE2由来の水っぽさとは違う見え方になりやすい、という説明は妥当です。

2) 非常に強いアンドロゲン作動性・中枢/交感神経系への影響が疑われる

ヒト高品質データは乏しいですが、トレンで語られる不眠、発汗、焦燥/攻撃性、心拍上昇感、持久系のしんどさは、少なくとも“完全な作り話”とは言いにくいです。
ただし、どこまでが薬そのものの固有作用で、どこまでが高用量・減量・睡眠不足・他薬併用の影響かは分離困難です。

薬理学だけでは言い切れない部分

1) 「一番効く」

“効く”の定義が曖昧です。
筋肥大、体重増加、見た目の硬さ、減量耐性、神経興奮、グリコーゲン保持感が全部混ざっています。

2) 「トレンの乳首問題=プロラクチン」

これもかなり怪しいです。
PR作用や症状の解釈はありえますが、“乳首症状が出た=プロラクチンだからカベルゴリン”は飛躍です。


3-5. メテノロン(プリモ)

ボディビル界での一般イメージ

「マイルド」

「乾く」

「副作用が少ない」

「減量向き」

「女性化乳房が出にくい」

薬理学的に説明できる部分

1) DHT系で非芳香化

メテノロンはDHT系で、芳香化しない側です。
そのため、E2由来の水分・乳房症状が前面に出にくい、という説明はできます。

薬理学だけでは言い切れない部分

1) 「安全」「副作用が軽い」

これは言いすぎです。
非芳香化だからE2系副作用は少ないかもしれませんが、
脂質悪化、HPT軸抑制、心血管リスク、脱毛/皮脂などは別問題です。
“マイルド”は比較の問題であって、安全宣言ではありません。

2) 「減量向き」

見た目が乾きやすい可能性はありますが、
本当に脂肪を落としているのか、E2が低めで水が抜けて見えるのか、食事や他薬の影響かは切り分けにくいです。


3-6. ドロスタノロン(マスタロン)

ボディビル界での一般イメージ

「硬くなる」

「見た目が締まる」

「抗エストロゲンっぽい」

「大会前向き」

薬理学的に説明できる部分

1) DHT系・非芳香化

ドロスタノロンはDHT由来で、E2を増やす薬ではないため、
“テスト高用量みたいな水っぽさが出にくい”という理解は自然です。

薬理学だけでは言い切れない部分

1) 「AI代わりになる」

これはかなり危ういです。
マスターが“抗エストロゲンっぽい体感”を語られることはありますが、
AI(アロマターゼ阻害薬)のようにE2管理を代替できる、と考えるのは危険です。

2) 「体脂肪が低いと効く」

これは“見た目に出やすい”という意味なら分かるものの、
薬理学的に明確な閾値があるわけではありません。


4. 体感ベースの「効果の大きさ」について、どこまで信用してよいか

ボディビル界でよくあるランキング

  • トレンが最強
  • デカはバルク向き
  • プリモ/マスターは減量向き
  • EQは食欲と血管
  • テストは全部の土台

この“方向性”自体は、完全にデタラメではありません。
ただし、医学的には以下の問題があります。

問題1:比較試験がほぼない

ヒトで、ボディビル使用量の
「テスト 500mg vs トレン 300mg vs プリモ 600mg」
のような比較試験は、まともには存在しません。

問題2:“効く”の中身がバラバラ

体重増加/除脂肪体重/水分/見た目/神経系の高揚感/回復感/減量耐性

が全部混ざっているため、
「どれが一番効くか」は定義しないと答えられません。

問題3:スタックで見分け不能になる

実際の現場では、

  • テスト併用
  • AI併用
  • 甲状腺薬
  • 利尿
  • GH/インスリン
  • 減量末期の脱水

などが混ざるので、単剤の性格が見えにくいです。


5. 「薬理学で説明できる部分 / できない部分」一覧

説明できる部分(比較的信頼してよい)

論点 判定 コメント
テストは芳香化しやすく、E2由来副作用が出やすい かなり説明可能 水分・乳房症状・AI議論の土台
ナンドロロンはテストほど芳香化せず、PR作用がある かなり説明可能 性機能や乳房症状の解釈が複雑になる
ナンドロロンは5α還元でDHNとなり、テストと局所作用が異なる 説明可能 特に皮膚・毛髪・前立腺側の違いの理解に重要
プリモ/マスターは非芳香化で、E2由来の水っぽさが少ない かなり説明可能 ただし“乾く”をどこまで薬のせいとするかは別
経口17α-アルキル化薬は肝・脂質への負担が大きくなりやすい かなり説明可能 これは実務上かなり重要
AAS全般で多血、脂質悪化、血圧、HPT軸抑制が問題になる かなり説明可能 種類差はあっても、基本リスクは共通

説明しにくい / 経験則止まりの部分

論点 判定 コメント
トレンが“最強” 証拠弱い 何をもって最強か不明
EQは必ず食欲が上がる 証拠弱い 有名だが、ヒトで強い裏付けは乏しい
ナンドロロンは関節に良い 一部体感は理解可能だが、治療効果のように扱うのは危険 痛み感覚や水分も絡む
乳首症状=プロラクチン問題 怪しい E2、PR作用、既存の女性化乳房などが混ざる
マスターがAI代わりになる 怪しい E2管理を代替できるとは言えない
プリモは“安全” 不正確 E2系副作用が少ないのと、全身リスクが低いのは別

具体例

ボディビル界の言い回しを、医学語に翻訳するとこうなる

ボディビル界の言い方 医学寄りに言い換えると
テストは水が乗る 芳香化してE2が上がりやすく、水分貯留や乳房症状に関与しうる
デカはデカディックになる ナンドロロンはPR作用と強い軸抑制があり、性機能低下の要因が複雑になりやすい
トレンは乾く 芳香化しないため、E2由来の水っぽさが前面に出にくい可能性がある
プリモは安全 少なくとも芳香化由来副作用は少ないが、脂質・軸抑制・心血管リスクは別
マスターは抗エストロゲン E2を増やす薬ではないが、AIのようにエストロゲン管理できるとは言えない
EQは血管が出る/食欲が出る 見た目や食欲の体感は報告されるが、機序の確立は弱い

リスク / 注意

1. “副作用が少ない薬”は、たいてい「ある副作用が少ない」だけ

たとえばプリモやマスターは、
「女性化乳房や水分が少ない」という意味ではマイルドかもしれません。
でもそれは、
「脂質・血圧・多血・脱毛・HPT軸抑制まで軽い」ことを意味しません。

2. 「プロラクチン問題」は雑に扱わない方がよい

特にナンドロロン/トレンで起きる症状を、
プロラクチンが高いに違いないと決め打ちするのは危険です。
症状の背景は複数あり、採血・他薬・量・E2バランスを見ないと判断を誤ります。

3. “乾く/丸くなる”は薬だけで決まらない

見た目は、

  • 塩分
  • 糖質
  • 体脂肪
  • 利尿
  • 睡眠
  • E2
  • ストレス/コルチゾール
  • 注射頻度と血中変動

の影響が大きく、薬1本の性格に還元しすぎると外します。


要約

AASごとの「傾向の違い」自体には、芳香化・5α還元・PR作用・経口化学修飾などの薬理学的根拠があります。

ただし、「どれが最強」「関節に効く」「乳首=プロラクチン」「AI代わりになる」などの実戦解釈は、かなり経験則・ブロ科学が混ざります。

実務上は、“E2軸・DHT軸・PR軸・肝/脂質軸・血液濃縮軸”に分けて見るのが一番ブレにくいです。


まとめ

AASを見るときは「芳香化 / 5α還元 / PR作用 / 17αアルキル化 / 半減期」の5軸で整理する

「乾く」「効く」「マイルド」は、その内訳(E2、水分、筋肥大、見た目)に分解して考える

19-nor系の症状を“プロラクチン”に即決しない

「非芳香化=安全」と誤解しない

ネットのanabolic/androgenic ratioは参考程度に留める

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