東京都千代田区大手町の内科・健康診断・予防接種

健常人へのメトホルミンの効果

糖尿病の治療薬のメトホルミンは、非糖尿病の健康な人でも、代謝改善・体重減少・老化抑制といったメリットの可能性を指摘されています。
一時期は乳酸アシドーシスのリスクで糖尿病の治療として避けられていましたが、最近では痩せ薬として使う方もいるようです。

現時点でのエビデンスをまとめています。

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珈琲のアンチエイジング作用と健康への影響

珈琲(特にブラック)および適量のカフェイン摂取は、多くの慢性疾患リスク低下や健康寿命延伸に関連する十分なエビデンスがあります。2~4杯/日(カフェイン200~400 mg)を目安に、午前に分散して飲むのが望ましいです。特に感受性や健康状態に応じて高齢者・妊婦・心疾患・不安傾向がある方は200 mg以下に調整しましょう。

また、抗酸化・抗炎症・代謝改善など、カフェイン・ミネラル・植物成分(クロロゲン酸など)は、野菜・果物・魚などと併用することで、生活全体としての健康維持・アンチエイジング効果が最大化されるでしょう。

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5α還元酵素阻害薬のテストステロンへの影響について

AGAの治療薬はテストステロンに影響があると懸念されています。

それに関する研究をまとめました。

1. フィナステリド

フィナステリドは5α-リダクターゼII型阻害薬であり、テストステロンからより強力なアンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)への変換を阻害します。

主に男性型脱毛症(AGA)や前立腺肥大症の治療に用いられます。

大量にアナボリックステロイドを投与中には、ケア剤として用いられます。

  • 血中遊離テストステロンへの影響:

    • フィナステリドはDHTの生成を阻害するため、血中の総テストステロン濃度はわずかに上昇する傾向にあります。これは、テストステロンがDHTに変換されなくなるため、血中にテストステロンが残る量が増えるためです。遊離テストステロンについても同様に、わずかな上昇または変化なしという報告が多いです。
    • DHTはテストステロンよりも強力なアンドロゲンであるため、DHTの低下による影響が懸念されることがありますが、テストステロン自体は維持されるため、全身的なアンドロゲン作用が大きく減弱するわけではありません。
  • 筋量、筋力への影響:

    • 複数の研究で、フィナステリドの服用が筋量や筋力に大きな影響を与えないことが示されています。
    • 例えば、高齢の低テストステロン男性を対象とした研究では、テストステロン補充療法単独、またはテストステロンとフィナステリドの併用が、除脂肪体重、握力、身体パフォーマンスを改善することが示されています。この研究は、テストステロンの筋に対する同化作用にDHTが必須ではないことを示唆しています。
    • 理論的には、フィナステリドによるテストステロンのわずかな上昇が筋成長に寄与する可能性も考えられますが、実際にはその影響は限定的であり、筋肉量に劇的な変化をもたらすことはないとされています。

まとめ(フィナステリド): フィナステリドは血中遊離テストステロンをわずかに上昇させるか変化させない傾向があり、筋量や筋力に対しては臨床的に有意な悪影響を与えないというエビデンスが示されています。


2. デュタステリド

デュタステリドは5α-リダクターゼI型およびII型の両方を阻害する薬剤であり、フィナステリドよりも強力にDHTの生成を抑制します。こちらも主にAGAや前立腺肥大症の治療に用いられます。

  • 血中遊離テストステロンへの影響:

    • デュタステリドは5α-リダクターゼのI型とII型の両方を阻害するため、フィナステリドよりも強力にDHTを抑制します。その結果、血中の総テストステロンおよび遊離テストステロン濃度は、フィナステリドよりも明確に上昇する傾向があります。これは、テストステロンがDHTに変換される経路がより広範囲にブロックされるためです。
  • 筋量、筋力への影響:

    • デュタステリドによるDHTの強力な抑制は、筋量や筋力への影響について懸念されることがあります。しかし、研究結果はフィナステリドと同様に、筋量や筋力に顕著な悪影響を与えないことを示唆しています。
    • ある研究では、テストステロン補充とデュタステリドの併用が、テストステロン単独の場合と比較して、除脂肪体重の増加や筋力の改善に差がないことが報告されています。この結果は、DHTの抑制がテストステロンの同化作用にとって必須ではないことを示唆しています。
    • ただし、デュタステリドはDHTの抑制が強いため、DHTが関与する他のアンドロゲン作用(例えば性欲など)には影響を与える可能性があります。

まとめ(デュタステリド): デュタステリドは血中総テストステロンおよび遊離テストステロン濃度を上昇させる傾向がありますが、筋量や筋力への臨床的に有意な悪影響は報告されていません。


全体的な考察

  • 血中遊離テストステロンへの影響:

    • フィナステリドおよびデュタステリドは、DHTへの変換を阻害することで、血中テストステロン(総テストステロンおよび遊離テストステロン)を上昇させる傾向にあります。デュタステリドの方がその作用はより強力です。
  • 筋量、筋力への影響:

    • フィナステリドおよびデュタステリドは、テストステロンのDHTへの変換を阻害しますが、テストステロン自体の同化作用は維持されるため、筋量や筋力に悪影響を与えることはないとされています。むしろ、テストステロン値がわずかに上昇することで、理論的には有利に働く可能性もありますが、臨床的に顕著な筋力増強効果は期待されていません。

これらの薬剤は、それぞれの作用機序に基づき、特定の疾患の治療に用いられます。

テストステロンや筋量、筋力への影響は、薬剤選択や治療計画の際に考慮すべき要素の一つですが、個々の薬剤の主要な治療目的とは異なります。

ご自身の状態や治療については、必ず医師にご相談ください。

テストステロンを上昇させる生活習慣

テストステロンを上昇させる薬以外の方法:科学的根拠に基づいたアプローチ

男性更年期障害の症状緩和やアスリートのパフォーマンス向上など、テストステロンの上昇に関心がある方に向けて、科学的根拠に基づいた一般的な方法を以下にまとめます。

目次

1.運動
2.睡眠
3.食事
4.ストレス管理
5.体重管理
6.アルコールの摂取を控える
7.競争活動

1.運動

筋力トレーニング(レジスタンストレーニング): スクワット、デッドリフト、ベンチプレスなど、複数の大きな筋肉群を同時に使う複合的な運動は、テストステロンの分泌を最も効果的に刺激するとされています。特に下半身のトレーニング(スクワットなど)が有効です。

: Kraemer, W. J., & Ratamess, N. A. (2005). Hormonal responses and adaptations to resistance exercise and training. Sports Medicine, 35(4), 339-361.

高強度インターバルトレーニング(HIIT): 短い時間で高強度の運動と休憩を繰り返す形式のトレーニングも、テストステロンレベルを一時的に上昇させることが報告されています。

: Vingren, J. L., et al. (2010). Endocrine responses to acute bouts of resistance exercise in men and women. Journal of Strength and Conditioning Research, 24(8), 2099-2107.

適度な強度と頻度: 強度が強すぎたり、オーバートレーニングになったりすると、かえってテストステロン値が低下する可能性があるため、適切なバランスが重要です。

: Fry, A. C. (2004). Overtraining with resistance exercise. Strength and Conditioning Journal, 26(4), 10-18.


2.睡眠

質の高い十分な睡眠: テストステロンの分泌は主に睡眠中に行われるため、1日7〜9時間の質の良い睡眠を確保することが極めて重要です。

睡眠不足の影響: 1週間5時間程度の睡眠制限でも、テストステロンレベルが10〜15%減少することが研究で示されています。

: Leproult, R., & Van Cauter, E. (2011). Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA, 305(21), 2173-2174.


3.食事

バランスの取れた食生活: ホルモン生成には、偏りのない栄養摂取が不可欠です。

健康的な脂質の摂取: 極端な低脂肪食はテストステロンレベルの低下と関連することが報告されています。オメガ3脂肪酸を豊富に含む脂肪の多い魚(サーモン、サバなど)、オリーブオイル、アボカドなど、良質な脂質を摂取しましょう。

: Volek, J. S., et al. (1997). Effects of diet and training on the testosterone-to-cortisol ratio. Journal of Applied Physiology, 82(1), 41-47.

十分なタンパク質: 筋肉の生成だけでなく、テストステロンの材料としても重要です。赤身肉(ラム肉など)、鶏肉、魚、卵、豆類などから摂取します。

: Antonio, J., et al. (2014). The effects of a high protein diet on indices of health and body composition–a crossover trial in resistance-trained men. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 11(1), 3.

重要な微量栄養素

亜鉛: テストステロンの生成に不可欠なミネラルです。**カキ、赤身肉、豆類、ナッツ類(アーモンドなど)**に多く含まれます。亜鉛不足の場合、サプリメントも有効です。

: Prasad, A. S., et al. (1996). Zinc status and serum testosterone levels in healthy adults. Nutrition, 12(5), 346-348.

ビタミンD: テストステロンの生成に関与します。日光浴に加え、脂肪の多い魚、卵黄、強化乳製品などから摂取できます。ビタミンDのサプリメントもテストステロンレベルの上昇に効果が期待できます。

: Pilz, S., et al. (2011). Effect of vitamin D supplementation on testosterone levels in men. Hormone and Metabolic Research, 43(3), 223-225.

マグネシウム: マグネシウム不足はテストステロン産生低下につながることがあります。ほうれん草、スイスチャードなどの葉物野菜、アーモンド、カシューナッツなどに豊富です。

: Maggio, M., et al. (2011). The relationship between testosterone and magnesium in aging men. International Journal of Endocrinology, 2011, 1-7.

その他: ザクロ(コルチゾールを減少させ、テストステロン増加の可能性)、ショウガ(テストステロン改善の可能性)、ニンニク、玉ねぎなども良い影響を与える可能性があります。

: Al-Dujaili, E. A., & Sakkira, H. (2005). Pomegranate extract: a novel agent for reducing stress-induced cortisol and increasing testosterone levels. Endocrine Abstracts, 9, P313.

: Wankhade, S., et al. (2018). Role of Ginger (Zingiber officinale Roscoe) in improving the reproductive functions and hormonal level in males. Journal of Herbal Medicine, 12, 1-10.


4.ストレス管理

コルチゾールとの関係: ストレスが多いと、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加し、テストステロンの生成が抑制されることがあります。リラクゼーションや趣味など、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。

: Cumming, D. C., et al. (1986). The effect of stress on reproductive hormones. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 62(6), 1081-1084.


5.体重管理

健康的な体重の維持: 肥満はテストステロンレベルの低下と強く関連しています。適正な体重を維持することが、テストステロンレベルを健康的に保つ上で重要です。

: Cohen, P. G. (2008). The hypogonadal-obesity cycle: role of aromatase. Endocrine Practice, 14(4), 517-519.


6.アルコールの摂取を控える: 過度なアルコール摂取はテストステロンレベルを低下させる可能性があります。

: Vatsalya, V., & Singal, A. K. (2017). Alcohol use and sex hormone imbalances: An overview. Alcohol and Alcoholism, 52(5), 516-527.


7.競争活動: スポーツ観戦やeスポーツなど、競争心が高まる活動に参加することも、一時的にテストステロン分泌を刺激することが示唆されています。

: Zilioli, S., et al. (2015). The big five personality traits and the testosterone-cortisol ratio. PLoS ONE, 10(12), e0145899.

これらの方法は、テストステロンの健康的なレベルを維持し、男性更年期症状の改善やアスリートのパフォーマンス向上に貢献する可能性があります。ご自身の体調や状況に合わせて、専門家(医師やトレーナーなど)と相談しながら取り入れることをお勧めします。

男性更年期障害対するテストステロン補充療法(TRT)後のPCTによる精子形成やホルモン回復について

男性更年期障害や低テストステロン症に対するテストステロン補充療法(TRT)後のPCT(ポストサイクルテセラピー)による精子形成やホルモン回復について簡潔にまとめます。

テストステロンに興味はあるけれど、

  • 妊孕性が心配
  • 一度始めたら止めたら回復しないのでは?

といった方がいますのでPCTについてまとめました。

目次

1. 主要な論文とその内容

2.まとめ

3.副作用

の順に記載します。

結論だけ気になる方はこちらのまとめを読んでください。

単剤ならクロミフェン>hCGと考えられる。

いずれにせよ併用療法が最も回復率が高い。

ただしhCGの投与回数と量が多い試験なので実施する場合には注意が必要。


1. 主要な論文とその内容

患者の年齢、TRT投与期間、PCT(クロミフェンやhCG)の内容と回復率に関する主要な論文の要約です。

論文1: Recovery of Spermatogenesis Following TRT or AAS Use (2016)
出典: Asian Journal of Andrology (PMID: 26908067)[](https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4854084/)
内容:
-対象: TRTまたはアナボリックステロイド(AAS)使用後の精子形成回復を評価。主に若年男性(平均年齢非明記だが、多くは生殖年齢層)。
– TRT投与期間: 数ヶ月~数年のばらつきあり。
– PCT内容:
1hCG単独:500~2500 IUを週2回、血清テストステロンレベルに応じて調整。
2hCG(3000 IU、隔日)+クロミフェン(50 mg、週3回)またはタモキシフェン。
回復率:
– hCG単独で精子形成が70%の患者で誘導された(特に睾丸サイズ>4 cmで効果大)。
– hCG+FSH(75~400 IU、週2~3回)の併用で、44~100%の患者で精子濃度>1~1.5×10^6/mLに回復(6~144ヶ月)。
– クロミフェン(50 mg、週3回)+hCGの併用では、63人の男性のうち98%が4~5ヶ月で精子濃度>1×10^6/mLに回復。
年齢の影響: 年齢に関する詳細なデータは限定的だが、若年男性(生殖年齢)で回復率が高いと推測。
結論: hCGとクロミフェンの併用は、TRT後の精子形成回復に有効。長期TRTは回復を遅らせる可能性。

論文2: Age and Duration of Testosterone Therapy Predict Time to Return of Sperm Count (2017)
出典: Fertility and Sterility (PMID: 28160924)[](https://www.eu-focus.europeanurology.com/article/S2405-4569%2818%2930217-7/abstract)
– 内容:
– 対象: 66人の男性(平均年齢40.2歳、TRT期間中央値2年)。
– TRT投与期間: 中央値1.67~4年。
– PCT内容:
– hCG 3000 IU、週3回。
– クロミフェンまたはタモキシフェン併用(クロミフェン25~50 mg/日)。
– 回復率:
– 総運動精子数>500万に回復したのは46人(69.7%)、平均回復時間は12ヶ月。
– 回復しなかった患者の平均年齢は44歳、TRT期間中央値4年。
– 若年(平均38.3歳)かつTRT期間が短い(中央1.67年)患者で回復率が高い。
– 年齢の影響: 高齢(44歳以上)で回復率が低下(OR非明記だが統計的に有意)。
– 結論: 年齢とTRT期間は精子形成回復の予測因子。hCG+クロミフェンは有効だが、高齢者や長期間TRTを受けた患者では回復が遅い。

論文3: The Use of HCG-Based Combination Therapy for Recovery of Spermatogenesis (2015)
– 出典: Journal of Sexual Medicine (PMID: 25659909)[](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25904023/)
– 内容:
– 対象: 49人の男性(平均年齢非明記、TRTによる無精子症または重度乏精子症)。
– TRT投与期間: 非明記(変動)。
– PCT内容:
– hCG 3000 IU、隔日、クロミフェン(25~50 mg/日)、タモキシフェン、またはアナストロゾール併用。
– 回復率:
– 47人(95.9%)が精子濃度>1×10^6/mLに回復、平均回復時間4.6ヶ月。
– 1人(2.1%)は精子分析なしで妊娠達成。
– 年齢の影響: 年齢別の詳細データなしだが、若年男性で回復が早い傾向。
– 結論: hCGベースのPCTは高効率で精子形成を回復。クロミフェン併用で回復速度が向上。

論文4: Long-Term Safety and Efficacy of Clomiphene Citrate (2019)
– 出典: Journal of Urology (PMID: 30597198)[](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31216250/)
– 内容:
– 対象: 400人の男性(平均年齢非明記、テストステロン<300 ng/dL)。
– TRT投与期間: クロミフェン単独治療のデータ(TRTなしの場合も含む)。
– PCT内容:
– クロミフェン25~50 mg/日、平均治療期間25.5ヶ月(範囲0~84ヶ月)。
– 回復率:
– 3年以上クロミフェンを使用した患者の88%が正常テストステロンレベル(>300 ng/dL)に到達。
– 77%が症状改善を報告。
– 副作用: 3年以上使用で気分変動(5人)、視界ぼやけ(3人)、乳房圧痛(2人)。
– 年齢の影響: 年齢別の回復率データなし。
– 結論: クロミフェンは長期使用でも安全で、テストステロン回復に有効。TRT後のPCTとしてのデータは限定的。


2. まとめ

回復率の要因
– 年齢: 若年(30~40歳未満)の方が精子形成やテストステロン回復率が高い。高齢(44歳以上)では回復が遅延または不完全な傾向(例:論文2)。
– TRT投与期間: 短期間(1~2年)のTRTを受けた患者は、長期(4年以上)に比べ回復率が高い(論文2)。
– PCT内容:
– hCG: 3000 IU(隔日または週3回)が標準。単独で70%の精子形成誘導、クロミフェン併用で95%以上に向上(論文1、3)。
– クロミフェン: 25~50 mg/日が一般的。単独でテストステロン上昇(88%が正常化、論文4)、hCG併用で精子形成回復速度が向上(論文3)。

– 併用療法: hCG+クロミフェンまたはタモキシフェンは、4~5ヶ月で95%以上の精子形成回復率(論文3)。

単剤ならクロミフェン>hCGと考えられる。

いずれにせよ併用療法が最も回復率が高い。

ただしhCGの投与回数と量が多い試験なので実施する場合には注意が必要。

PCTの目的(精子形成かテストステロン自己分泌能か)

テストステロンの投与期間や量

患者さんの年齢や生活習慣

等によって結果が変わりますので、こういった報告を元に

「貴方は◯%の確率で精巣の機能が強くなります」

とは断定できません。

きちんとPCTを受けた場合、概ね90%以上の方が回復していますので目安にはなると思います。


3.副作用
– hCG: 多血症、女性化乳房、注射部位の不快感。低用量(500 IU隔日)で副作用軽減(論文5)。
– クロミフェン: 気分変動(8%)、視覚障害(3%)、乳房圧痛(2%)。

アナボリックステロイドの使い分けや副作用対策

ボディビル競技におけるアナボリックステロイドの使い分けとトレンド

球技や格闘技、ボディビルにおけるアナボリックステロイド(AAS)の使用は、筋肉増強、脂肪削減、競技パフォーマンス向上を目的として一部の競技者によって行われています。

テストステロン、ボルデノン、トレンボロンなどのAASは、それぞれ特性や効果が異なり、目的やサイクルに応じて使い分けられます。

以下に、使い分け、メニュー、最近のトレンド、ケア剤について詳細に解説します。

ただし、アナボリックステロイドの使用は重大な健康リスクを伴い、日本ではドーピング目的での使用は禁止されており、医療目的以外での使用は違法です。

本回答は情報提供を目的としており、ステロイドの使用を推奨するものではありません。

保険診療でのテストステロン補充療法(TRT)はこちらをご覧ください。


1. アナボリックステロイドの種類と使い分け

テストステロン

特性
テストステロンはAASの基盤となる薬剤で、筋肥大と筋力向上に高い効果を発揮します。アナボリック(筋肉合成)作用とアンドロゲニック(男性化)作用のバランスが良く(100:100)、初心者から上級者まで広く使用されます。エナンテート、シピオネート、プロピオネートなどのエステル型があり、作用時間、投与頻度が異なります。

用途

  • バルクアップ:筋肉量を増やすサイクルで主に使用。週250~1000mgが一般的(初心者は低用量から)。

  • ベース薬剤:他のステロイドとのスタック(併用)の基礎としてほぼ必須。

  • カッティング:脂肪削減時にも筋肉維持のために低~中用量で使用。

メリット

  • 安全性が高く、副作用が管理しやすい。

  • 価格も比較的安価。

副作用

  • エストロゲンへの変換による女性化乳房、水分貯留、脱毛、高血圧など。

使い分けポイント

  • 長期間作用するエナンテートやシピオネートはバルクアップに、短期間作用のプロピオネートはカッティングやコンテスト直前に適している。

ボルデノン(エクイポイズ)

特性
テストステロンに似た構造を持ち、アナボリック作用が強く(100:50)、アンドロゲニック作用が低い。獣医学で使用されるが、ボディビルでも人気。食欲増進効果が特徴。

用途

  • バルクアップ:食欲増進により摂取カロリーを増やし、筋肉量増加をサポート。週400~800mg。

  • カッティング:筋肉の硬さや血管浮き出しを促進。

メリット

  • 副作用が少なく、初心者にも使いやすい。

  • テストステロンとの相性が良い。

副作用

  • エストロゲン変換による女性化乳房、腎臓負担、赤血球増加による血液粘度上昇。

使い分けポイント

  • トレンボロンの強い副作用が気になる場合の代替として選択。

  • 長期間(12~16週)のサイクルに適。

トレンボロン(アセテート、エナンテート)

特性
最も強力なAASの一つで、アナボリック・アンドロゲニック比が500:500(テストステロンの5倍)。筋肥大、脂肪燃焼、筋肉の硬さを劇的に向上させる。エストロゲンに変換されないため、水分貯留が少ない。

用途

  • カッティング:コンテスト準備で筋量と硬さを最大化。週150~300mg。

  • バルクアップ:短期間で劇的な筋肉増量を狙う上級者向け。

メリット

  • 脂肪燃焼と筋肉維持を同時に実現。

  • コルチゾール(筋分解ホルモン)を抑制。

副作用

  • 腎臓・肝臓負担、プロラクチン上昇による性機能障害、攻撃性増加、不眠、発汗、精神不安定。

使い分けポイント

  • 上級者向け。短期間(6~8週)のサイクルで使用し、副作用管理が必須。

  • コンテスト直前の「仕上げ」に最適。

その他のステロイド

  • ダイアナボル(メタンジエノン):経口剤で、バルクアップのキックスタートに使用。肝毒性が強い。
  • オキシメトロン(アナドロール):筋肥大と筋力増強に優れるが、肝毒性とエストロゲン様作用が強い。
  • スタノゾロール(ウィンストロール):カッティング向け。筋肉の硬さとドライな仕上がりを強調。

使い分けの原則

目的に応じた選択

  • バルクアップ:テストステロン+ボルデノンまたはダイアナボル

  • カッティング:テストステロン+トレンボロンまたはスタノゾロール

  • コンテスト準備:トレンボロン+スタノゾロール+低用量テストステロン

サイクル期間

  • 初心者:6~8週(テストステロンのみ)

  • 中級者:8~12週(テストステロン+ボルデノンまたはトレンボロン)

  • 上級者:12~16週(複数スタック)

スタック戦略

  • テストステロンはほぼ全てのサイクルに含める。

  • AR経由型(テストステロン、ボルデノン)と非AR経由型(トレンボロン、ナンドロロン)の併用は相乗効果が期待できる。

個人差の考慮

  • 体質や副作用耐性に応じて用量や薬剤を調整。

2. サイクルとメニューの例

初心者向けバルクアップサイクル(8週)

薬剤

  • テストステロン・エナンテート:週500mg(月・木に250mgずつ注射)

  • (オプション)ダイアナボル:1~4週、毎日20~30mg(経口)

ケア剤

  • アリミデックス(アナストロゾール):0.5mgを週2回(エストロゲン抑制)

  • 肝臓保護:シリマリン(ミルクシスル)毎日200mg

PCT(ポストサイクルセラピー)

  • サイクル終了後2週目から:クロミッド50mg/日+ノルバデックス20mg/日を4週間

トレーニング

  • 週5~6回、主要筋群(胸、背中、脚、肩、腕)を分割

  • 高重量・6~12レップ、セット間休息1~2分

栄養

  • 体重1kgあたり:タンパク質2~2.5g、炭水化物4~6g、脂質0.8~1g

  • 例:体重80kg → タンパク質160~200g、炭水化物320~480g、脂質64~80g


中級者向けカッティングサイクル(10週)

薬剤

  • テストステロン・プロピオネート:週400mg(月・水・金に133mg注射)

  • トレンボロン・アセテート:週200mg(月・水・金に67mg注射)

  • (オプション)ウィンストロール:5~10週、毎日25mg(経口)

ケア剤

  • アロマシン(エキセメスタン):12.5mgを隔日(エストロゲン抑制)

  • カベルゴリン:0.25mgを週2回(プロラクチン抑制)

  • シリマリン:毎日200mg

PCT

  • サイクル終了後3日目から:

    • クロミッド:100mg/日(2週)→ 50mg/日(2週)

    • ノルバデックス:40mg/日(2週)→ 20mg/日(2週)

トレーニング

  • 週5回、筋群分割+高強度インターバルトレーニング(HIIT)週2回

  • 中重量・10~15レップ、セット間休息30~60秒

栄養

  • タンパク質2.5g/kg、炭水化物2~3g/kg、脂質0.8g/kg

  • カロリーは維持~10%減


上級者向けコンテスト準備サイクル(12週)

薬剤

  • テストステロン・プロピオネート:週300mg
  • トレンボロン・アセテート:週300mg
  • マステロン(ドロスタノロン):週300mg(筋肉の硬さ強調)
  • 9~12週:アナバー(オキサンドロロン)毎日40mg

ケア剤

  • アナストロゾール、レトロゾール:0.5mgを隔日(強力なエストロゲン抑制)
  • カベルゴリン:0.5mgを週2回
  • EPA(イコサペンタエン酸):毎日2g(高脂血症予防)

PCT

  • クロミッド+ノルバデックス+HCG(性腺刺激ホルモン)で自己分泌能を回復

トレーニング

  • 週6回、筋群2回/週+HIIT週3回

  • 高レップ(15~20)+ポージング練習

栄養

  • タンパク質3g/kg、炭水化物1~2g/kg(段階的削減)、脂質0.5g/kg

  • カーボローディングをコンテスト直前に実施

3. 最近のトレンド

低用量・短サイクル

健康リスクへの意識の高まりから、従来の高用量(週1g超)よりも、低用量(週200~500mg)のサイクルが注目されています。

トレンボロンも週100~150mgで十分な効果を得るケースが増加しています。

また、サイクル期間も6~8週に短縮し、休薬期間を長く取る傾向が見られます。

セレクティブアンドロゲン受容体モジュレーター(SARM)

SARM(例:オスタリン、リガンドロール)は、AASに比べて副作用が少ないとされ、筋肥大や脂肪削減に使用されています。

AASの代替として人気が上昇中ですが、長期的な安全性は未確立です。

ペプチドと成長ホルモン

成長ホルモン(GH)やインスリン様成長因子(IGF-1)、ペプチド(GHRP-6、CJC-1295)は、AASと併用して筋肥大や回復を促進します。コンテスト準備での使用が増加しています。

データ駆動型アプローチ

血液検査(テストステロン値、肝機能、脂質プロファイルなど)を定期的に行い、投与量やケア剤を調整する「科学的」なステロイド使用がトレンドとなっています。

医師やコーチがモニタリングを支援するケースが増えています。

副作用のモニタリングやテストステロン投与量やPCTの効果判定には、感覚だけでなく血液検査の数値での客観的な指標が大切です。

女性競技者のAAS使用

女性ボディビルダー(フィジーク、ビキニ部門)では、オキサンドロロンやプリモボランなどアンドロゲニック作用の低いAASを低用量(5~10mg/日)で使用するケースが増えています。

ただし、声の低音化や毛深さなどの男性化リスクが課題です。


4. ケア剤と副作用管理

ケア剤の種類と目的

エストロゲン抑制

  • アリミデックス(アナストロゾール):0.5mg/隔日。テストステロンやボルデノンのエストロゲン変換を抑制

  • アロマシン(エキセメスタン):12.5mg/隔日。不可逆的アロマターゼ阻害剤

  • ノルバデックス(タモキシフェン):PCTで20~40mg/日。女性化乳房の予防

プロラクチン抑制

  • カベルゴリン:0.25~0.5mg/週2回。トレンボロンやナンドロロンのプロラクチン上昇を抑制

肝臓保護 経口AASの肝毒性軽減

  • シリマリン(ミルクシスル):200~400mg/日。

  • ウルソ:100~600mg/日。

脂質・心血管保護

  • イコサペンタエン酸(EPA):2g/日。高脂血症予防

  • スタチン(医師管理下):LDL管理

脱毛予防

  • フィンペシア(フィナステリド):1mg/日。DHT変換抑制

  • デュタステリド:0.5mg/日。より強力な5α還元酵素阻害剤

性機能・ホルモン回復

  • HCG:PCT中に250~500IU/隔日。睾丸機能の維持・回復

  • クロミッド:50~100mg/日。内因性テストステロン刺激


副作用と管理

女性化乳房
アロマターゼ阻害剤やSERMで予防・抑制。進行時は手術が必要。

肝障害
経口ステロイドを避ける。シリマリンやウルソなどで肝機能を保護。定期的な血液検査が必要。

心血管リスク
HDL低下・LDL上昇に注意。有酸素運動とEPA/スタチンで予防。

精神症状
トレンボロン使用時の不眠・不安・攻撃性は、用量調整やカベルゴリンで緩和。

ホルモンクラッシュ(使用後の抑うつ・無気力)
PCTの徹底が必要。クロミッド+ノルバデックスにHCGを組み合わせる。


PCT(ポストサイクルセラピー)の重要性

AAS使用後はテストステロンの自己分泌が低下しており、その回復を促す必要があります。

標準的なPCT

  • クロミッド:50mg/日(4~6週)

  • ノルバデックス:20mg/日(4~6週)

  • HCG:サイクル終了直後から、250~500IU/隔日(必要に応じて)

休薬期間の目安

  • サイクル8週 → PCT4週+休薬4週

  • サイクル12週 → PCT4週+休薬6週

5. 健康リスクと法的問題

健康リスク

心血管系

  • 心筋肥大、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞リスクの増加

  • HDL(善玉コレステロール)低下、LDL(悪玉)上昇

肝臓

  • 経口ステロイド(特にアルキル化タイプ)による肝障害

  • 長期使用で肝腫瘍や肝不全の可能性

ホルモン系

  • テストステロン産生抑制、精子数減少、睾丸萎縮

  • 女性では声の低音化、月経異常、毛深さなどの男性化

精神系

  • うつ症状、攻撃性増加、依存性の形成

  • 特にトレンボロン使用時に不安・睡眠障害・焦燥感などが報告

その他のリスク

  • ニキビ・脱毛・皮脂分泌増加

  • 睡眠時無呼吸症候群の悪化

  • 免疫機能の抑制や感染症リスクの増加


法的・倫理的問題

日本における法的制限

  • 医療目的以外でのAAS使用は「医薬品医療機器等法」に違反

  • 医師の許可のない個人輸入や譲渡も処罰対象になる可能性あり(特に販売・譲渡)

  • 輸入品は偽造や不純物混入のリスクが高い

競技団体の規定

  • JBBF、IFBB、NPC、WADAなどではAASは禁止物質として規定

  • 検査で陽性となれば、資格停止や大会出場不可、名誉失墜のリスクあり

  • ドーピングによりキャリアが断絶するケースも多数報告


6. 代替案と安全なアプローチ

サプリメントによる代替

  • プロテイン・EAA・BCAA:筋肉合成と回復促進

  • クレアチン:筋力・瞬発力向上(科学的根拠多数)

  • 亜鉛・ビタミンD:テストステロンの自然分泌をサポート

  • L-カルニチン:脂肪酸代謝を促進し、減量中のパフォーマンス維持

  • テストステロンブースター:WADAの制限なくテストステロンの増加や利用率を向上するサプリメント

トレーニングの工夫

  • 高強度レジスタンス(HIT):週4〜6回、8~12RM中心でプログレッシブオーバーロード

  • ボリュームと頻度の最適化:筋群あたり週10セット以上を目安に調整

  • 休養と回復の徹底:オーバートレーニング防止と成長ホルモン分泌促進のため、睡眠時間を確保

栄養戦略

  • タンパク質:体重1kgあたり2.0g以上を基本に、必要に応じて2.5gまで増量

  • 炭水化物:トレーニング日の前後で重点的に摂取

  • 脂質:ホルモン生成のために適量(0.8~1.0g/kg)

医療的アプローチ(TRT)

  • 40代以降やテストステロン低下が顕著な場合、医師の監督下でのテストステロン補充療法(TRT)も選択肢

  • 専門クリニックでは、血液検査を通じて安全に管理される


7. 結論

ボディビル競技におけるアナボリックステロイド使用は、目的別に薬剤を戦略的に組み合わせることで、劇的な肉体変化をもたらします。特にテストステロン、ボルデノン、トレンボロンを中心としたサイクルは効果が高く、最近では短期・低用量・複合ケア剤使用がトレンドです。

しかしながら、その副作用や健康リスクは極めて大きく、肝臓・心血管・精神・性機能への影響、ホルモンの恒常性破壊など、深刻な影響をもたらす可能性があります。さらに、日本では医療目的以外での使用は違法であり、ドーピング検査のある競技では失格や制裁の対象になります。

したがって、筋肥大やパフォーマンス向上を目指す際は、まずはトレーニング・栄養・サプリメント・生活習慣の最適化を第一に考えるべきです。それでも改善が見られない場合は、医療機関での診断と治療を通じて、合法かつ安全な手段(TRTなど)を検討することが最良の選択です。

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