健常人へのメトホルミンの効果
糖尿病の治療薬のメトホルミンは、非糖尿病の健康な人でも、代謝改善・体重減少・老化抑制といったメリットの可能性を指摘されています。 一時期は乳酸アシドーシスのリスクで糖尿病の治療として避けられていましたが、最近では痩せ薬として使う方もいるようです。 現時点でのエビデンスをまとめています。
1. インスリン抵抗性の改善・代謝改善
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グルココルチコイド誘発インスリン抵抗性の抑制
健常者17名を対象に、メトホルミンがグルココルチコイドによって引き起こされたインスリン抵抗性を改善したとの報告があります。脂質異常、筋機能低下、骨吸収などのマーカーも低減されたとされています 。
2. 体重減少・脂質改善
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非糖尿病肥満者での体重減少
BMI ≥ 27 kg/m²の過体重・肥満の非糖尿病者154名を対象とした6ヶ月介入試験で、平均5.6 %(約5.8 kg)の減量効果が認められ、インスリン抵抗性が強い人ほど効果が高いと報告されています 。 -
非糖尿病者における脂質プロファイルの改善
LDL/HDL比が12 %(4週目)および6 %(12週目)改善し、体重も減少したという臨床データがあります pubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
3. 心血管疾患・がん・認知症予防など
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加齢関連疾患(心血管・がん・認知機能低下)への影響
観察研究では、非糖尿病でもメトホルミン服用によってアテローム性動脈硬化の軽減、がん発症抑制、認知機能低下の進行遅延が示唆されており、これは抗老化効果の可能性を支持しています 。
4. 健康寿命・老化制御の可能性
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健康寿命の延伸と抗加齢作用
メトホルミンは、老化に関連する細胞メカニズム(AMPK活性化、酸化ストレス低減、血管保護作用など)に作用し、ヒトでは「健康寿命」(病気にかからず健康で過ごせる期間)の延長が期待されています。ただし寿命の総延長については一部研究では結論が分かれており、慎重な評価が必要とされています 。 -
女性の長寿と関連する可能性
最近の報道では、メトホルミンを服用していたポスト閉経女性で、90歳まで生存する可能性が30%高かったとの概要も示されています。ただし対照群がなく小規模な観察研究であるため、さらなる検証が必要です 。
5. グルコース代謝への複雑な影響
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肝産生の増加と摂取促進
非糖尿病者に90日間2000 mg/日を投与したRCTでは、内因性グルコース産生(EGP)と糖取込み速度(Rd)が共に約30 %上昇。これは従来の“肝糖産生抑制”モデルと異なり、腸管の関与など複雑な代謝変化を示唆しています pubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
まとめ
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代謝改善:インスリン感受性向上、脂質プロファイル改善
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体重減少:過体重・肥満者では減量効果あり
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老化/疾患リスク抑制:心血管、がん、認知機能低下に対する保護効果
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健康寿命の延伸可能性:細胞レベルの若返り効果だが、寿命延長は未確定
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注意点:グルコース代謝への影響は複雑。肝外の作用も含む可能性がある
注意点
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多くは観察研究や短期介入(数日〜数ヶ月)であり、健常者が長期に服用する安全性や効果の確実性は不明です。
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副作用(胃腸症状、乳酸アシドーシスリスクなど)が存在します。処方や長期投与を考える際には医療専門家との慎重な相談が不可欠です。